――武内監督は、主演の深田恭子さんと『神様、もう少しだけ』以来21年ぶりですね。今回と前作で作風は真逆ですが、どちらもかなりチャレンジングな企画だと思います。深田さんの成長や変化などは感じますか?
あのドラマはかなりチャレンジングでしたね、女子高生が援助交際をしてHIVに感染して亡くなってしまう…というストーリーで、今じゃ考えられないお話ですよね。チーフディレクターになって最初の作品で、いきなりそんなテーマで、しかも当時の金城武さんや深田恭子さんの知名度ってそんなに高くなかったし、その2人で連ドラ1本任せるって言われたとき、正直「終わったな」って思いました(笑)。ある意味崖っぷちに立たされて、命がけで撮った記憶があるので、21年前のことですが鮮明に覚えています。
だから今一緒にやっていて不思議な気持ちなんです。彼女ってあの頃から見た目がほとんど変わらないじゃないですか。だから一緒にやっていて21年前に引き戻されるような感覚があって。彼女も同じようなことを言っているんですけど、すごく不思議な感覚になって、なんだか浦島太郎的な気分になりますね。ただ、容姿はほとんど変わらないんだけど、演技の技術や表現力の成長はもちろん、共演者や現場スタッフへの気配り、雰囲気づくりができるようになっている姿を見ていると、親心じゃないですけど「成長したなぁ、恭子…」って思いますね。
――深田さんも、監督を父親みたいな存在とおっしゃっていました。
親子みたいな関係…だからかもしれないですけど(笑)、演出もすごくやりやすいですね。なんでもすごく素直に聞いてくれるし、言ったことを真摯(しんし)に受け止めてくれるし、それをどう表現したほうがいいのか真面目に考えてくれて、すごく信頼してくれてるんだなっていうのを感じるのですごくやりやすい。
またこちらとしても、彼女にとって『神様―』が多くの方たちにとって代表作と言われているので、それを超える代表作にしたいと思っているし、彼女もそう思ってやってくれているので、その気持ちはお互い共通してるんじゃないかな。だけど親子関係みたいだからか、あんまりしゃべらないんですよ(笑)。そういう緊張感があったほうがいいのかなと思って。あえてあんまりベタベタしないようにはしてますね。
――瀬戸康史さんは、ふざけた空間の中ですごく大真面目な演技をされていて、それがとても面白くてハマっています。監督にはどう映っているんですか?
まず、とても上手な役者さんだなと思いますね。真面目だし、セリフは完璧に入っているし、表現力もあるし、メリハリも効くし、セリフのテンポも良い。最初はもうちょっと女性的な人なのかなって思ってたんですけど、初めて会ったときにとっても九州男児で男らしい人なんだなって思って、なんでそういうところをこれまで表現してこなかったんだろうと逆に疑問に思うほどだったんですよ。
だから、そういう部分を引き出してやると新しい瀬戸康史像っていうのができるのかなっと思ってやっています。警察官に見えるようにがっしりとした体を作ってほしいとお願いしていたら、あっという間に10キロくらい体重を増やしてきて、ムキムキになって、精悍な顔つきになって。だから、彼の新しい一面を出せてるんじゃないかなと思っています。
■渡部篤郎&小沢真珠は想像以上にしっくり
――他のキャストの方はいかがですか?
渡部篤郎さんはやっぱりうまいですよね、コメディもできて、ふざけたがりだからこっちが抑えてるくらいなんですよ(笑)。変に笑かしにいくより無駄にかっこよくあればあるほど面白いっていうのを伝えて、そういう演技をお願いしています。他がすごくムチャぶりなキャスティングになっているので(笑)、渡部さんがドラマの背骨のような存在でまとめ上げてくれて、すごく感謝しています。
小沢真珠さんは『翔んで埼玉』で一緒にやって、すっごい面白い役者さんだなって思って、だからぜひ今回も「小沢真珠は入れたい!」とお願いしたんです。
――深田さんの母親という実年齢と全然違う役柄ですしね(笑)
すごく無理があるんですけど、そういう無理を乗り越えるぐらいのぶっ飛んだ演技を見せてくれて。リズムもテンポもいいし、彼女は結構やりすぎても成立しちゃうんですよね。むしろやりすぎてないと面白くないという、すごく稀有(けう)な女優さんだと思っています。渡部さんとの相性もすごくよくて、2人の夫婦の会話や絡み合ってる場面はネットでも話題になってくれていますし、その見え方が想像以上にしっくりきたという感じですね。
――個人的にはマルシアさんのキャラクターがすごく面白くてハマってます。『翔んで埼玉』もそうですが、どういうキャスティング会議をすれば意外性があって個性的な役者さんが出てくるんだろうと唸ってしまいます。
全体的にぶっ飛んだキャスティングにしたいよね、あまりテレビドラマに出ない方のほうが面白いよね、その中で逸材を掘り起こしたいよねって話をしていました。それで舞台とかミュージカルをやられているマルシアさんに、これまでのイメージと違う堅物な役柄をやってもらったら、面白い化学反応が起こるんじゃないかなという話になったんです。
――マルシアさんも今後歌ったりするんですか?
どうでしょう、僕はそういうのも見てみたいですけどね。ドラマの中でミュージカルもやってますからね。ちょっと考えてます、まだ分からないですけど(笑)
■『アウト×デラックス』は宝庫
――意外なキャスティングは、舞台などの役者さんから発想が出てくるんですか?
舞台だけに限らず、いつも新鮮なキャスティングをしたいなと思っていて、『翔んで埼玉』でも実年齢じゃなくてGACKTに高校生やってもらうほうがインパクトがあるし、男役を二階堂(ふみ)にやらせるとか、そうきたか!って思ってもらえるようなキャスティングをいつもしたいと思っているんです。
――そのいきなり登場するミュージカルシーンですが、すごく手間がかかってるなと思って見ています。どんな風に作られているんですか?
まず脚本ができ上がって、そこから曲をつけて、それを音楽家に歌ってもらって、それをもとに大貫(勇輔)さんに踊りを考えてもらって撮影して、最終的にそれをアテレコするという、二重三重四重くらいの構造になっているんです。
ミュージカルを1回やってみたかったんですね。そして、それは本物にやってもらうっていうことに意味があって、普通の役者さんにやらせるんじゃなくてミュージカル俳優に真面目にやってもらうのが面白いんですよ。だから、ミュージカルやバレエダンスをやられている大貫さんをキャスティングした時点で、ミュージカルシーンを作りたい!と思いました。
――同じくダンスと言えば舞踏家でもある麿赤児さんなんですが、知り合いのファンが麿さんの踊りを待望しています。
なるほど…そのアイデアはなかったですね。考えます(笑)。そういうことを毎日会議しながら、誰を踊らせたら面白いなとか、そういうアイデアを出して楽しみながら作ってます。麿さんもそろそろ登場しますよ。
――意外なキャスティングと言えば、先日放送された『アウト×デラックス』での“『ルパンの娘』オーディション”も拝見しました。遠野なぎこさんが合格しましたが、どんな登場をされるのか、とても楽しみです。
遠野さんは結構重要な役どころで登場しますよ。『アウト×デラックス』に出てる方って僕好みの方が多くて、宝庫だなと思いました(笑)。実は遠野さんのほかにも、第5話では山下(恵司)さんも出演しますし、僕の心の中では(加藤)一二三さんにも出てもらいたいし、ミラクル(ひかる)さんにも出てもらいたいし、もうみんな出てもらってもいいんじゃないかと思ってますね。本当に無理矢理なコラボじゃなくて、自然なコラボに見えたらなと思っています。