収益にもならなそうだし、80名くらいの参加者を乗せただけでは、レクサス車の宣伝効果も限定的にならざるを得ないのに、なぜ、レクサスはDINING OUTに関わるのか。質問の意図をはっきりさせたかったので、少し失礼なような気もしたが、上記の通り岡澤さんに聞いてみた。その答えはこうだ。
「DINING OUTは、すごく贅沢で特別な時間を提供していると思います。このためだけに、100名を超える人が関わっていて、その土地の場所、食材、人などは全て、この瞬間のためだけのものです。非日常、その時にしか味わえない唯一無二の時間を作るということに、私たちは共感しています。レクサスはブランドとして、お客さまにそういう時間を提供していきたいと考えています」
レクサスは自動車ブランドでありながら、クルマを作るだけでなく、顧客にライフスタイルをも提示するような存在になろうとしている。それでは、レクサスが提示しようとしているライフスタイルとは、一体どんなものなのか。DINING OUTに参加して味わった贅沢さ、驚き、特別感などに、そのヒントがあるのだろう。
「それと、旅における移動というのは、絶対に大事なパートだとも思っています」。岡澤さんは続ける。
「その時間も楽しんでいただきたいというのがレクサスの考えで、その演出を手伝えたらと思っています。そこで(移動そのものも楽しみだということを)発信していって、少しでも多くの方に知っていただいて、その特別な時間に触れたいと思ってもらえれば、ブランドとして伝えたいことが、伝わるのではと考えました」
この言葉、裏を返せば、現代は「移動は楽しい」という価値観が伝わりにくい時代になっているという、危機感の表れなのではないだろうか。移動時間は短い方がいいし、移動に掛かるコストは少ない方がいいし、移動の間はできるだけ長く眠っていられた方がいい。もし、こう考える人ばかりになってしまったとしたら、ラグジュアリーブランドのクルマなど売れるわけはない。岡澤さんの考えはどうか。
「それは、あるかもしれません。クルマそのものだけで魅力を伝えることには、難しい部分があります。クルマでの移動は、旅の一部、生活の一部、何かの一部になることで、より特別なものに変わります。そういう瞬間の中にあってこそ、魅力をより発揮できる。そういう意味でも、DINING OUTの中にレクサスがあると、より魅力が伝わるのかなと」
いいクルマを作るだけでは、もはや十分ではない時代に差し掛かっているとすれば、自動車メーカーは、クルマにどんな付加価値を付けられるかという領域で知恵をしぼらざるを得なくなる。その付加価値とは当然、速いだとか安いだとかいったことではないはずだ。クルマのある暮らし、いわばライフスタイルを、自動車メーカーが自ら描いてみせるのも、そんな時代背景によるのかもしれない。たったの80名だったとしても、今回のDINING OUTに参加した人たちに対し、レクサスが濃密な「クルマ体験」を届けられたのは間違いないはずだ。
贅沢な旅と食事で非日常を味わいたい人にも、レクサスがどんな世界観を提示しようとしているのかを知りたい人にも貴重な機会となるDINING OUT。主催するONESTORYの大類社長によれば、次回の概要は8月にも発表するそうだ。これまでは毎回、予約が完売となっているそうなので、参加したいという方にはONESTORYの発表を注意深く待つことをオススメしたい。