取材目的で参加した報道陣は行く先を知っていたが、一般客はレセプション会場に到着した時、驚いたに違いない。その会場というのは、青森県立美術館だったのだ。リンゴの発泡酒「シードル」で乾杯したあとは、学芸員のガイド付きで美術館の中へ。棟方志功の仕事の数々、寺山修司の劇団「天井桟敷」に横尾忠則が描いたポスター、『ウルトラマン』に登場する宇宙人・怪獣を手掛けた成田亨のデザイン画など、青森県に深い縁のある作家たちの作品を、少し早足ではあったが堪能できた。もちろん、奈良美智の『あおもり犬』にも会えた。

  • 青森県立美術館

    レセプション会場となった青森県立美術館

青森県立美術館の中でも白眉といえるのが、マルク・シャガールがバレエ『アレコ』のために製作した4点の背景画だ。この日、アレコの連作が飾られた部屋では、照明とナレーションによる演出を体験。アレコの物語が進むのに合わせて、当該場面を照らす光のおかげで、この背景画に描かれているものの意味を知ることができた。

  • 青森県立美術館

    青森県立美術館を見学する参加者たち

いよいよ、DINING OUTのメインイベントであるディナーの時間が近づいてきた。レクサスに乗り込んで向かったのは、青森市浅虫にある陸奥護国寺。聞けば、アジサイで有名なお寺だそうだ。88段の石段を上ると、砂で整地された境内(?)にはずらりとテーブルが並んでいる。陸奥湾と湯の島を一望できる野外レストランは、たそがれ時の薄暗がりに包まれて神秘的だ。

  • 陸奥護国寺
  • 陸奥護国寺
  • 陸奥護国寺
  • 陸奥護国寺はアジサイで有名なお寺だそう

  • 陸奥護国寺
  • 陸奥護国寺
  • 陸奥護国寺
  • 石段を上って神秘的な野外レストランに入店する

ディナーを担当したのは、代官山にあるフレンチレストラン「Abysse」(アビス、東京都渋谷区)の目黒浩太郎シェフ。魚介に特化したフランス料理を得意とし、ミシュラン東京では一つ星を獲得している実力者だ。青森県に来たのは今回が初めてだったそうだが、陸奥湾の豊富な魚介を使った独創的な皿を次々に提供してくれた。

  • フレンチレストラン「Abysse」の目黒浩太郎シェフ

    フレンチレストラン「Abysse」の目黒浩太郎シェフ(1985年、神奈川県生まれ)は、服部栄養専門学校を卒業後、都内複数の店での修行を経て渡仏。マルセイユでミシュラン3つ星のレストラン「Le Petit Nice」に入店し、魚介の扱いやフランス料理の技術を習得した

デザートを含めると16品に及んだ圧巻のディナーでもあったし、筆者の舌では凝った料理の描写など及ぶべくもないので、どんな料理だったかは写真で確認していただくしかないのだが、ほとんどの料理が食べたこともないような、とてもおいしいものだったということだけは、ここでお伝えしておきたい。

  • フジツボのエッグタルト

    フジツボのエッグタルト

  • バチコのチュロス

    バチコのチュロス

  • カワハギにラベンダー

    カワハギにラベンダーが添えられた皿

例えば「もずく」ひとつを取ってみても、普段、黒酢で食べているものとは、何から何まで違っていた。まず、もずくそのものが、陸奥湾でこの時期にしか取れないという特別な素材であった上、味付けは「濃厚な昆布だし」ときて、そこに「多肉植物」「自家製ディルオイル」「ライムジュース」などが組み合わさっていたのだ。もちろん、これもおいしかった。

  • 鮎魚女(アイナメ)のソーセージ

    鮎魚女(アイナメ)のソーセージ

  • もずく

    もずく

  • イシナギ

    イシナギ

  • 大きくカットされた蝦夷鮑と自然米のリゾット

    大きくカットされた蝦夷鮑が乗った自然米のリゾット

食事中にも贅沢かつ驚きの演出があった。まず、会場には棟方志功の書「華厳」が登場。書を屋外に展示するなど聞いたこともないが、この日のための特別な演出なのだろう。宴もたけなわというころには、湯の島から花火が打ち上がる。それも、2~3発ではないのだ。事ここに至っては、そのラグジュアリー感にただただ脱帽するしかない。

  • 棟方志功の書「華厳」

    ディナー会場に掛けられた棟方志功の書。「華厳」と書いてある

  • 湯の島から上がる花火

    湯の島から花火が!

「1年のうちの数日だけ現れて、訪れた人たちの思い出の中だけに残る幻のレストラン」。今回の旅のホストを務めた東洋文化研究家のアレックス・カーさんは、ディナーの終わりに挨拶に立ち、DINING OUTをこう表現した。言い得て妙だ。

  • 東洋文化研究家のアレックス・カーさん

    今回の「DINING OUT」でホストを務めたアレックス・カーさん(1952年生まれ)はイエール大学で日本学を専攻。東洋文化研究家で作家としての顔も持つ

一般客はディナーの後、それぞれが選んだ宿へとレクサスで帰ることになる。今回のDINING OUTでは、前出の「南部屋・海扇閣」のほか、「椿館」と「辰巳館」という宿が用意された。これで、7月6日のプログラムは全て終了した。

  • ディナーに携わったスタッフ

    ディナーに携わったスタッフは、ほとんどが地元の方だったそうだ

「DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS」には、2日にわたる日程で各40名、計80名の一般客が参加した。料金は1泊2食付きで14万円台~16万円台。高価だとは思う。ただ、これだけのプログラムを仕込み、当日に滞りなく実行するための費用を想像すると、余計なお世話だが、主催者側にどのくらいの儲けが残るのか、少し心配になる。オフィシャルパートナーのレクサスなどは、ほとんど手弁当に近い状況で参加しているのではないだろうか。

なぜ、レクサスはDINING OUTに協力しているのか。Lexus International グローバルブランディング グループ長の岡澤陽子さんに、ディナー会場で話を聞いてみた。