セキュリティとプライバシー
アップルはユーザーのプライバシーを尊重し、ユーザーの個人情報を収集しないことを強調しているが、セキュリティとプライバシーはCatalinaでも重要な強化ポイントとなっている。
まず「T2」セキュリティチップを搭載したMac(iMac Pro、2018年以降に発売されたMac mini、MacBook Air、MacBook Pro)では、Touch IDによる認証やApple Payの支払い情報などが管理されることに加え、信頼できるアプリだけが実行でき、データも自動的に暗号化されて保存される。さらにCatalinaでは「アクティベーションロック」機能が搭載され、(おそらく後述する「Find My」アプリでリモートでアクティベーションロックした)Mac本体の消去や再アクティベーションを他人が実行できないようになる。
またコンピュータウイルスなどのマルウェア対策として、CatalinaではOSは専用の読み取り専用ボリュームで実行されるようになる。システムとデータが分離されるため、何らかの原因でシステムファイルが上書きされる恐れがなくなる。マルウェア対策としては、現在のシステムにも搭載されている「Gatekeeper」機能が強化され、新たにインストールされたアプリは、実行前に既知のセキュリティ問題がないか確認される。こうして安全なアプリだけを利用しやすい環境となっている。
さらに、アプリがデスクトップや「書類」フォルダー、iCloud Drive、外付けボリュームにあるデータにアクセスする際には、事前にアクセス権の許可を求めるダイアログが表示されるようになる。このダイアログはキー操作を取得したり、画面の静止画および動画キャプチャーを行うアプリについても同様に表示されるため、いわゆるスパイウェアの類を発見・防止する一助になるだろう。
従来iOSで「iPhone(iPad)を探す」「友達を探す」アプリとして提供されていた位置情報アプリが「Find My」アプリに統合され、Macからも利用できるようになる(これまではWebブラウザでiCloudにアクセスする必要があった)。これまでMacはWi-Fiのアクセスポイントの位置情報を元にしていたため、スリープ状態では最後にアクセスポイントを使った場所しか確認できなかったが、CatalinaではBluetooth信号を近くにあるApple製デバイスがキャッチしてiCloudにリレーしてくれるため、位置を確認しやすくなった。
これはちょうど、Bluetoothを利用したIDタグと同様の動作で、機器同士がすれ違う際に位置情報をやり取りする一種のメッシュネットワークとなる。個々の機器のIDは匿名でやり取りされ、通信も暗号化されるため、Appleを含めて第三者がデバイスを特定することはできない。やり取りされる情報量も極めて小さいため、パケットの浪費も気にしないでいいレベルだ。大変便利な機能なので、願わくば市販のIDタグ製品とも連携できるようになれば、紛失物は大幅に減ることになるだろう。
また、Apple Watchを装着していればログイン時の認証が自動化できる「自動ロック解除」が強化され、アプリのインストールやノートのロック解除、Safariのパスワード表示などでパスワードを入力する代わりにApple Watchのサイドボタンをダブルクリックして認証できるようになる。MacユーザーにとってますますApple Watchが手放せなくなりそうだ。
ハンディキャッパー向け機能も充実
macOSには以前から身体にハンディキャップを持つユーザー向けの補助機能「アクセシビリティ」が搭載されているが、Catalinaでは新たに「Voice Control」を搭載。iOSやiPad OSにも搭載される同機能は、音声だけで画面上のボタンなどを選択できる機能。マウスやキーボードの操作ができないユーザーでも快適に操作できる。
また、マルチディスプレイ環境では、メインディスプレイは標準の表示のまま、セカンドディスプレイに一部を拡大して表示できるようになる。さらに画面上のテキスト部分にマウスカーソルを当て、「Control」キーを押すとその部分のテキストがポップアップして拡大表示される「Hover Text」機能も搭載される。いずれも視力にハンディキャップのあるユーザー向け機能だが、前者はプレゼンテーションや細かなグラフィック作業、後者は電子書籍の利用時などにも役立ちそうだ。
Macの価値を高めるアップグレード
ここ数年、macOSはiOS系列と比べて機能面で後塵を拝するイメージがあったが、Catalinaではかなりの部分で統合が進み、追いついてきた。またMacのアドバンテージは複雑・大規模なコンテンツ制作において発揮されるが、iPadとの連携が強化されたことにより、この部分でもMacの存在価値が強化されたと言えるだろう。
macOS Catalinaの対応ハードウェアはMojaveとほぼ同等になるため、現在利用しているユーザーのほとんどは安心してアップグレードし、新機能の恩恵を享受できる。ただしセキュリティ機能などいくつかの機能は最新ハードウェアでしか動作しない。特に動作対象の加減となる2012年モデル~2014年モデルを使っている場合、修理対象からも外れているため(アップルのハードウェア修理サービスは製造終了から5年間)、ハードウェアの買い替えを考慮するいい機会になるだろう。 対応するMacは以下の通り。
機種名 | 対応モデル | T2セキュリティチップ搭載の有無 |
Mac mini | 2012年モデル以上 | 有(2018年モデル以上) |
iMac | 2012年モデル以上 | 無 |
iMac Pro | 2017年モデル以上 | 有(全モデル) |
MacBook | 2015年モデル以上 | 無 |
MacBook Air | 2012年モデル以上 | 有(2018年モデル以上) |
MacBook Pro | 2012年モデル以上 | 有(2018年モデル以上) |
Mac Pro | 2013年モデル以上 | 無(2019年モデルには搭載される模様) |
アップグレード対応機種は、2012年以降に発表されたMac。Mojaveに対応していた2010年および2012年モデルのMac Pro(Metal対応グラフィックカード搭載)は対象にならない |