Googleの行動規範には長く「邪悪になるな (Don't be evil)」という言葉が入っていた。初期の頃から同社の非公式モットーのような存在になっていたので、ご存じの方も多いと思う。「Don't be evil」はオープンなWebの進化を後押しするGoogleをよく表した言葉であり、「Don't be evil」を掲げた同社が誰からも好かれる存在になったことが、Web検索の熾烈な競争を勝ち抜く原動力の1つになった。

Google I/O 2019の基調講演は原点回帰、「Don't be evil」を掲げ、技術力と共にWeb検索市場に台頭したGoogleを思い出させる内容だった。

基調講演の最初にCEOのSundar Pichai氏は「世界中の情報を整理し、万人がアクセスして活用できるようにする」というGoogleのミッションを紹介した。それはこれまでも、そしてこれからも変わらない。だが、「ミッションに取り組む方法は常に進化している」と述べ、今のGoogleのあり方を次のように表現した。

「全ての人にとってよりヘルプフルなGoogleを作ること (build a more helpful Google for everyone)」

  • ここ数年の取り組みで「AIファースト」が浸透、それを踏まえて昨年20周年を迎えたGoogleが新たなモットー

人々が"答え"を見つけるのを手助けする存在だったGoogleは今、人々が目標や目的を達するのを手助けする"ヘルプフル"な存在にもなろうとしている。例えば、機械学習機能を用いたGmailのスマートコンポーズ機能は、メールを書く際にメールを送る相手やメールの内容から適切と思える表現を提案する。同機能を活用したら、忙しい時でも後回しせずに送らないといけないメールを処理できる。

"有用な"とか"助けになる"を意味する「ヘルプフル」は、Googleの新しいモットーといえる。Googleは多様な事業を展開しているが、収益は依然として広告に大きく依存している。しかも、その広告事業は今、厳しい時期を迎えている。ネット広告事業でEU競争法に違反したとして14億9,000万ドルの制裁金支払いを命じられ、制裁金支払いが響いて2019年1~3月期は減益決算だった。広告の伸びも鈍化している。そうした中、Googleが新たなビジネスモデルの構築につながると期待しているのがAI (人工知能)であり、2年前のGoogle I/Oで「AIファースト」を宣言した。

AIに舵を切っているのはGoogleだけではない。20年前のWeb検索と同様、今クラウドベンダーの間でAIの主導権を争う熾烈な競争が起こっている。AI開発においてGoogleは有力なポジションにある。だが、競争の先行きは不透明だ。Googleにはデータが集まり、優秀なエンジニアも集中する。それ故に、AIにおいてもGoogleに対する危惧、批判の圧力は強い。だから、Googleは「ヘルプフルな存在になる」と約束する。批判を浴びることが少なくないが、広告事業というビジネスの柱があるから、GoogleはWeb技術やAndroidのようなオープンプラットフォームの開発に資金を投じ、AIのような将来に向けた研究に投資できる。それによってWebやモバイルが進化し、人々の暮らしが豊かになる。人々を手助けする存在がGoogleのゴールであり、Googleは誰にとってもヘルプフルな存在であり続けるということを「信用してほしい」と訴える。

では、ヘルプフルはどのような体験を人々にもたらすのか? 今年は「ヘルプフル」と、万人のためにを意味する「for everyone」をキーワードに基調講演を構成し、開発中の数々のサービスを披露、いくつかの新製品を発表した。