今回発表されたQCS40xシリーズも、アメリカのサンディエゴ本社でSnapdraonのチームが設計と開発を主導する形で作られました。クアルコムが従来から得意とするコンピューティング処理と通信コネクティビティのパフォーマンスに優れ、しかも音楽再生のクオリティも豊かなオーディオ向けSoCとして、同社はその強みをアピールしています。

  • QCS40xシリーズは仕様が異なる基本の4種類で展開されます

構成はマルチコアCPU+デュアルコアDSP

QCS40xシリーズには、ARM Cortex A53のアーキテクチャをベースに設計された1.4GHzのマルチコアCPUのほかに、最新のSnapdragon 855と同じパフォーマンスを持つHexagonシリーズのDSP、および最新規格のWi-FiにBluetooth、ZigBeeなどのコネクティビティが統合されます。

このQCS40xシリーズと同時に発表された、クアルコムの音質と低消費電力性能を両立させたクラスDデジタルアンプ用ICチップ「Qualcomm DDFA」の最新製品「CSRA6640」など、アンプICを組み合わせるだけでスマートスピーカーの基礎となるプラットフォームが構成できます。

  • 同時に発表されたクアルコム独自のDDFA技術を採用するデジタルアンプIC「CSRA6640」(写真中央のICチップ)との組み合わせで、高性能・低消費電力を特徴とするオーディオ機器を開発できます

AIアシスタントが動くスマートスピーカー開発キットも

オーディオメーカーはこれまで、CPUにDSP、DACや通信用のICチップなどをそれぞれ選んで一つのプラットフォームに集約させ、さらに効率の良いパワーマネージメントにも気を配りながらまとめ込んでいました。このQCS40xシリーズを採用すれば、これらが一度に解決し、設計開発のコストを大幅に効率化できます。また、メーカーは、音質やデザインなどオーディオ製品の大事な差別化要素を磨くことに、リソースを集中させることができるメリットも生まれます。

QCS40xシリーズはICチップ自体のコスト競争力も高いそうです。クアルコムの担当者は「マルチチャンネル再生に対応するサウンドバーなら、300ドル前後の製品にQCS40xシリーズを載せて、高音質と多機能を提供することができる」と説明していました。

クアルコムではQCS40xシリーズのICチップとソフトウェアの開発キット(SDK)に加えて、製品を試作評価するための“お手本”となる開発キット(ADK:Audio Development Kit)も、同社のWeb直販などを通じて開発者に提供していきます。

今回の発表会ではスマートスピーカーの開発キットが用意され、AIアシスタントを組み込んだ場合の鋭い音声操作への対応と、マイクを常時スタンバイモードにした状態での省電力駆動性能などが紹介されました。

  • QCS40xシリーズとCSRA6640の組み合わせによるリファレンスとしてスマートスピーカーの開発キットを用意します

ドルビーアトモスやDTS:Xにオプションで対応

サウンドバーについても、5.1.2chのオブジェクトオーディオ(立体音響)再生が可能な開発キットによる、シネマサウンドの再生デモンストレーションが体験できました。QCS40xシリーズにはオプションとして、ドルビーアトモスとDTS:Xのオブジェクトオーディオ再生に必要なデコーダーが組み込めます。

ユーザー目線で見れば「高音質・多機能なのに価格もユーザーフレンドリーな、オブジェクトオーディオ再生に対応するサウンドバー」がQCS40xシリーズによって続々と商品化されれば嬉しい限りです。ちなみにQCS40xシリーズにはハイレゾ再生の機能も統合されています。

  • こちらは5.1.2ch対応のサウンドバーの開発キット

AI内蔵ヘッドホンや薄型壁掛けAVアンプも夢じゃない?

QCS40xシリーズはSoCとして実装面積、パワーマネージメントの効率を高めることにも注力しながら開発されています。同じく実装面積、パワーマネージメントの効率に優れるデジタルアンプIC「CSRA6640」と組み合わせれば、据え置き型だけでなく肩などに乗せてサラウンド音声が楽しめる「ウェアラブルタイプのスマートスピーカー」や、Wi-Fi経由で音楽ストリーミングサービスに単体で常時接続ができる「AI内蔵ヘッドホン」、あるいは「薄くて壁掛けもできるAVアンプ」など、ライフスタイル性に富んだ商品の開発も加速するのではないでしょうか。

ソフトウェアはLINUX、またはAndroidベースでのカスタマイズにも高い自由度を確保しています。QCS40xシリーズは既にクアルコムのオーディオ用SoC、DDFAデジタルアンプICを使って製品を開発、商品化しているメーカーへのサンプル出荷を開始しています。

今後はスタートアップ系も含めた様々なメーカーのスマートオーディオ分野への参戦も期待しつつ、QCS40xシリーズが実現するイノベーティブな機能を載せた製品を1日でも早く体験できる日が来ることが待ち遠しいですね。