印象深かったシーンは?という問いについて、大河原氏は「ソ連原潜がゴジラに襲撃されるくだりでの、大量の"水落とし"を使ったシーン。あれほどの規模でやったのはなかなかなくて、かなりの迫力が出たと思います。あとは、新宿の群衆シーンですね。有志を募ってエキストラで参加していただいたのですが、こちらの希望する動きや表情などをみなさんに伝えるのがチーフ助監督の仕事でね、そのへんも大変でした」と、いくつかの印象に残った撮影の思い出を語った。

浅田氏は「ゴジラが熱線を吐いて、新宿の高層ビルに穴をあけるカットなんて、よく覚えていますね。当時、新宿の高層ビル群は最先端の都市というイメージがあって、東宝でも最大の広さを持つ第9ステージに大規模なミニチュアセットを作りました。巨大感を出そうとしてアオリで撮ると、すぐ天井がバレてしまうので、黒い幕を張ってカモフラージュしてみたこととか、大変だったことを思い出します。あとは有楽町でゴジラが新幹線をつかむカットが印象深いです。美術デザイナーの井上泰幸さんによって有楽町の街並みを再現した素晴らしいセットが出来上がったんですけれど、遠近感を出すため、奥に行くにしたがって小さく作られていて、ゴジラが奥から登場したときに道の幅が狭くて、薩摩さんも歩くのが大変だったんじゃないかな」と、広大なステージに精密なミニチュアの街を再現し、そこをゴジラが歩いていくという今では非常に贅沢ともいえる撮影テクニックをふりかえった。

また「石膏で作った道路をゴジラが踏み抜いてバランスを崩す、というカットがあったんですけれど、ゴジラが踏むべきその道路を二度も踏んで壊したスタッフがいて、それがとても印象に残っています」と、慎重な準備をしていても運悪くスタッフが先に街を壊してしまう場合があったと苦笑まじりに話していた。

中野監督は、本作の「原案」および「プロデューサー」を務め、ゴジラ復活に並々ならぬ力を注いだ田中友幸氏の思い出を聞かれて、「あの人はいつも"ユウコウ"さんと呼ばれていたけれど、本当は"ともゆき"さん。僕が友幸さんに初めて会ったとき、"ともゆき"さんと言ったら『俺の名前を間違えずに呼んだのはお前だけだ』と言って笑っていた。僕が円谷英二(特技監督)さんの助監督だったとき、友幸さんは言いたいことがあると円谷さんに言わずに、僕のほうに言うんです。やっぱりプロデューサーが監督に意見すると、ケンカになってしまうから僕を挟む形にしていたんだろうな。友幸さんがすごい人だと思うのは、今、どんな映画を作れば当たるかがわかっている"商才"があるところ。まさにプロデューサーになるために生まれてきた男でした」と、数々の大ヒット映画を手がけてきた名プロデューサーの功績をたたえた。また橋本監督については「マジメに"しんにゅう"がかかっている男でした。橋本さんとはお互い助監督の時代から一緒にやってきた間柄で、とても仕事がやりやすかったですよ」と、その映画作りに取り組む真摯な姿勢を懐かしそうに振り返っていた。

今回の『84ゴジラ復活トーク』では、物販コーナーに置かれたホビージャパン社発行のムック本を購入した方に、本イベント限定ポストカード(中野昭慶氏、薩摩剣八郎氏のどちらかによるサイン入り)がプレゼントされた。中野監督のサインは漢字をベースにしたものが通常なのだが、1枚だけ、中野監督が"子ども"のファン向けに考案したという平仮名ベースのサインが書かれている。本イベントに参加された方の中で、このレアな「中野監督ひらがなサインバージョン」をゲットされた方はいるだろうか。

  • 中野監督のサイン入りポストカード(通常版)

  • 中野監督の"子ども向け"サイン入りポストカード

最後の挨拶でマイクを持った中野監督は「円谷さんは生前"俺たちの仕事は残らない。映画が封切られたら忘れられてしまう。だからこそ今の仕事を精一杯頑張るんだ"と話していました。でも『ゴジラ』(1984年)が封切られてから35年が経つ中で、多くのファンの方々がこの作品を忘れずにいてくれた。映画の作り手として、こんなにうれしいことはありません! ほんとうに今日はどうもありがとう!」と、ゴジラを愛してくれる大勢のファンの思いを感じて、改めて感謝の言葉を投げかけた。

「ゴジラ1984 コンプリーション」は、ホビージャパンより現在発売中。映画原案、企画書、準備稿シナリオの再録から、撮影メイキング、スタッフ、キャストインタビュー、ゴジラ復活への長く険しい道のりを克明に追いかけたドキュメント記事など、関係諸氏のご協力のもと、貴重な証言と豊富な資料を駆使して『ゴジラ』(1984年)とその"時代"を徹底的に分析・研究しているムックである。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

TM & (C)TOHO CO., LTD.