エンパワーメントの進め方

さまざまな分野で活用されている「エンパワーメント」ですが、一般的な企業では、どのようにエンパワーメントを進めているのでしょうか。

まずは、エンパワーメントを推進することを宣言し、どんな企業を目指すのかを従業員に明示する必要があります。全員が同じ目標を共有し、同じ方向を向くことは、組織運営を成功に導く基本中の基本です。

組織としての目標を掲げた後は、個人の成長につながるような目標や課題を個々に設定します。この時、実現不可能なものを設定してしまうとモチベーションが下がってしまうため、頑張れば手が届くであろう目標、いわゆる「ストレッチゴール」を明確に設定すると良いでしょう。

明確な目標を設定する一方で、その遂行手段や方法については個人の判断に委ねる必要があります。権限委譲は、従業員への信頼の証でもあります。上司からの信頼は、従業員に自信を与えるでしょう。

ただし、権限委譲したからといって、問題が起きた際に「個人が勝手にやったこと」と責任逃れするような経営者では論外です。個人がミスを犯した場合には、失敗を許容し、問題を共有し、ともに対策を考えるなどのサポートが不可欠です。

介入するのではなく、あくまでも信じ見守ること。それが、エンパワーメントの基本です。

エンパワーメントにおける内発的動機づけとは

心理学における動機づけには、行動の要因が評価・賞罰・強制などの人為的な刺激によるものであるという「外発的動機づけ」と、行動要因が内面に沸き起こった興味・関心や意欲によるものであるという「内発的動機づけ」の二つがあるとされているのですが、実は、エンパワーメントによって個々を成長させるためには、この「内発的動機づけ」が重要だといわれています。

マネジメントに関する研究者のトーマスとベルソース(Thomas & Velthouse,1990)は、エンパワーメントを「担当する仕事の役割に対する個人の態度を表す4次元の認知によって明らかにされた内発的モチベーションの増大」と定義。そのエネルギーを高めるために必要とされる4つの認知は、以下のとおり。

コンピテンス(自己効力感)

自分はやれば出来る、課題をうまくこなせるという認知の強さ。

影響感

自分の行動が、その仕事の目標達成に与える影響の大きさに対する認知。

有意味感

個人や集団の理想や基準によって判断された、仕事の目標・目的の価値に対する関心の強さ。仕事に対する従業員の内発的な関心のこと。

自己決定感(選択感)

ある行動に対し、どの程度自己決定したと認識しているかの度合い。従業員の行為についての因果責任のこと。

これらをしっかりと認知することにより、内発的なモチベーションが高まり、個々の成長に大きな影響を与えるとされています。

エンパワーメントによるメリット

では、エンパワーメントを推進することで、企業にどんなメリットがあるのでしょうか。前述のとおり、まずは、現場における顧客のニーズやトラブルなどに、上からの判断や指示を待つことなく、迅速に対応できるという点が挙げられます。それは、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

また、自らの判断で行動することには責任が伴います。さらに、権限を与えられることで「信頼されている」ことを実感するでしょう。責任や信頼は、人を大きく成長させるものです。

そうして従業員ひとり一人が成長し、力を付けることができれば、企業全体のスキルの底上げになるでしょう。

エンパワーメントのデメリット

多くのメリットがある一方、エンパワーメントにはデメリットも存在します。知識や経験不足の従業員にとって、権限を委ねられることは大きな負担でしかありません。その結果、モチベーションやパフォーマンスの低下を招き、重大なミスが発生してしまう恐れもあります。

また、マニュアルで全ての業務を固めれば一定の質とサービスを保つことができるのに対し、エンパワーメントの場合には、個々のレベルによってサービスにバラつきが生じることも懸念されます。

ゆえに、現場や個人に丸投げするのではなく、個々の適性を見極めた上で、できることの線引きを明確にする必要があるでしょう。あくまでも、企業理念や経営方針から逸脱しないよう、全従業員がそれを理解し共有することが大切です。


エンパワーメントは、子育てに似ていると感じます。みんなと同じ考えや行動ができるよう、ついつい口を出し、親が思う正解へと誘導してしまう……。親の言うとおりに動いていれば大きな失敗をすることはないかもしれませんが、それは単に、親が考えたことに従っているに過ぎず、一人では判断できない子に育ってしまうかもしれません。

まずは相手を信頼し、自らの判断で行動できるよう任せてあげること、そして、適宜サポートしてあげることが、人を育てる上で最も大切なことなのかもしれませんね。