最後に、2019年に「変わって欲しい」課題を2つ。
1つは「Siri」です。デジタルアシスタントとして、Google AssistantやAmazonのAlexaと比べて厳しい点を付けられること度々ですが、それ以上に、音声認識が次世代のユーザーインターフェイスと目されているにもかかわらず、MacのGUIやiPhone/iPadのマルチタッチのようなデバイスの使い勝手を一変させるような効果的なソリューションになっていないのが残念です。Siriがもっと有用であれば、「AirPods」や「Apple TV」「HomePod」はもちろん、iPhone/iPadやMacなどSiriが統合された全ての製品の価値が向上するでしょう。
2018年12月にJohn Giannandrea氏が機械学習およびAI戦略担当シニアバイスプレジデントに任命されました。2018年4月にAppleに入社した同氏は、GoogleでAI・検索関連のプロジェクトを統括していました。Giannandrea氏が機械学習とAI戦略をリードすることでSiriの向上が期待されます。
もう1つはHomeKitです。HomeKitはデジタルホームの効果的なソリューションになっていますが、GoogleやAmazonのソリューションに比べると対応するスマートデバイスが少なく、拡大ペースも鈍いままです。ここ2年、1月に米国で開催されるIT・家電見本市CESにおいて、Google AssistantやAmazon Alexaをサポートする製品が主役の1つになっていますが、HomeKitの存在感は薄いままです。
以前はMacworld ExpoがApple製品に関わるメーカーの展示会として機能し、そこからiPodをサポートする様々な周辺機器やサービスが広がっていました。しかし、Appleが撤退してからMacworld Expoは衰退してしまいました。今のHomeKitに必要なのは、かつてのiPodエコシステムのような広がりです。これはHomeKitだけの問題でありません。
例えば、Apple Musicです。Apple製品で使うと最高の音楽サービスですが、その枠を超えるとApple Musicの体験が減退してしまいます。エコシステムの広がりという点ではSpotifyに軍配が上がります。2018年11月にAppleはAmazonと提携し、Amazonのスマートデバイス「Echo」シリーズからApple Musicにアクセスできるようにしました。スマートホーム、スマート家電に関して、そうした提携やサービス開放を進めていくのか、これからAppleがサービス事業を強化していく上で注目点になります。
iPhoneは2017年に誕生から10周年を迎えました。そして2018年はリーマンショックから10年でした。つまり、iPhoneは世界経済がどん底の状態で芽吹き、その後の記録的な経済拡大を牽引してきました。前編の最後に、これから米国の景気が冷え込めばAppleは厳しい舵取りを迫られると書きましたが、見方を変えると、10年前がそうだったように困難な時期こそ問題解決のイノベーションを起こせるチャンスでもあります。
好調だったホリデーシーズン商戦の高揚感から一転、クリスマス大暴落によって危機感に満ちた幕開けになった2019年。景気後退への懸念も高まっています。iPhoneエコノミーにも影響が及びそうですが、過去の成功にとどまらず、Appleは常に新たな時代の体験に取り組んでいます。2019年は厳しい年になるかもしれません。でも、そこからAppleが蒔いた種が力強く芽吹く可能性を期待せずにはいられません。