――幼い頃からたくさん習い事をしていたんですよね。ご両親にとって、娘の夢が「歌手」になることだと知って驚かれたでしょうね。
そうですね。幼稚園の頃から「歌手になりたい」と言っていたんですけど、親からは「高校卒業するまではダメ」と言われて。だから高校卒業してすぐにギターを買って、路上ライブして、オーディションをたくさん受けて……両親はそんな昔に言ったことをまさか娘が覚えてたとは思わなかったでしょうね(笑)。
不安定な歌手、芸能界を目指すことに対して、周りの人から「なれるわけない」と思われているような気がして。通っていた大学内に就活生があふれる中、ギターをかかえて一人歩いていたあの時も勝手に疎外感を抱いたこともありました。今思えば、そういった感情も原動力になったんだと思います。
――その熱い情熱の発火点となったのが、シンディ・ローパーだと聞きました。
幼い頃、父がMTVのミュージックショーを見せてくれて、80'sのミュージックビデオは本当にカラフルでポップで自由。もちろん歌詞の内容は分かりませんでしたが、シンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」という曲のミュージックビデオを見て衝撃を受けて。すっごく楽しそうに歌っていたので、私もこうやって人を楽しませる人になりたいと思いました。
「私の傷ついた心を癒やしてくれた」
――3周年を迎えたときのブログが印象的でした。というのも、5周年記念ライブの囲み取材で語った内容と似ていたからです。長いようで短い3年。悔しい思いをした路上ライブ。何よりも読んで驚いたのは、観客がたった一人のライブがあって、それがお母さんだったと。
なつかしい!確かにありました(笑)。恵比寿のライブハウスだったと思います。それまでお客さんが少ないことはたくさんあったのですが、「ついにお母さん一人か……」と(笑)。ライブハウスのスタッフさんが気を使って座ってくださって。
――6周年、7周年と歌手を続けていくと、その親孝行はどんどんより深いものに。
そうですね。昔に書いた曲を今聴くとその当時の自分の気持ちがわかって、すごく懐かしい気持ちになります。こうしてCrystal Kayさんとコラボするなんて、当時の自分は夢にも思わなかったでしょうから、10周年、20周年の自分も想像していることとは違う楽しみ方を見つけていると思います。過去の曲を聴くと、これからがさらに楽しみになります。
――過去のインタビューでは、支えられた曲としてSMAPの「君は君だよ」を挙げてましたよね? すごくいい歌詞ですよね。
これからの方向性に悩んでいた時期でもあったんですが……デビュー前やデビューしたての頃は、根拠のない自信や反骨精神、悔しい気持ちがあっても堂々と胸を張って夢をいだけていた時期でした。デビューして現実を知り、大人になっていくにつれて、大きな夢が人前で言えなくなっていく。実は根拠のない自信もすごく大切なことで、小さくまとまっていく自分がすごく嫌でした。そういう自分に気づいて自分を奮い立たせられない時があって……そんな私の心を癒やしてくれたのが「君は君だよ」でした。
デビュー前後の頃は、直接的な表現で後押ししてくれる曲をよく聴いていました。私がインタビューでその曲を挙げた頃……正論なんて自分がいちばんよくわかっていて、それができない状況に苦しんでいたんです。頭ではわかっているけどできない。そういうつらい時期だったから。寄り添って、包み込むような温かさのある曲。本当に心が救われました。あとは、玉置浩二さんの「田園」最強説(笑)。年齢を重ねれば重ねるほど、心に響きます。
――楽曲制作への影響もありましたか?
自分がシンプルなメッセージに癒やされていたこともあり、メロディもサウンドもすごくシンプルになりました。あまり、ギュッと詰め込んだような曲は作らなくなりました。
――苦労したかいがありましたね。ご自身の時代ごとの証を刻み続けることができる仕事ってすごく素敵です。
歌はその時々によって、私の傷ついた心を癒やしてくれた。それを逆の立場になって、私の歌を通して皆さんの励みや支えとなれば、本当に幸せなこと。歌手冥利に尽きます。
■プロフィール
chay
1990年10月23日生まれ。2012年ワーナーミュージック・ジャパンより「はじめての気持ち」でCDデビュー。2013年10月よりフジテレビ系『テラスハウス』に出演。2014年5月より『CanCam』専属モデルとしても活動スタート。2015年フジテレビ系月9ドラマ主題歌「あなたに恋をしてみました」をリリースし50万ダウンロードを記録。バンド編成による全国ツアー、弾き語りLIVE「chay's room~One mic,One guitar~」、フェス出演(SUMMER SONIC2015等)など精力的なライブ活動を行っている。