ひとつは、ファンの大型化である。新たに開発したファンは、間口を5mmほど大きくしたものであり、これにより静音性を実現している。実は、ここでも工夫が凝らされている。ファンを大型化すれば、当然、重量が増えるが、ここに軽いアルミを採用。結果として、大型化しながらも2~3gの軽量化を実現したという。

  • ファンを大型化。間口を5mm拡大し、静音性を実現した

「単品でみれば、アルミを採用したことで強度は落ちる。だが、筐体に包まれる形で配置をすることで強度を高めることができ、アルミを採用しながらも剛性を維持することができた」(松下マネージャー)というのだ。

BOXスピーカーも新採用

2つめは、BOXスピーカーの採用だ。

モバイルノートPCの用途を考えれば、音質はあまり気にしなくていいというのが、これまでの常識であったが、「どこにでも持って歩ける特徴と、働き方改革の浸透によって、UH-Xをテレワークで利用したいという用途が想定された。そこで、音質にこだわる必要が出てきた」(河野マネージャー)という。

また、プレゼンテーションでの利用の際に、小さな会議室では、そのままPCから音を出したいという用途も想定される。音質の改善は、こうした世界最軽量のモバイルノートPCだからこそ想定される用途にも対応した機能強化のひとつといえるのだ。

  • スピーカーはBOX型を採用し、音質を高めた(写真はUH-Xと同じ形のUH75/C3ガーネットレッド)

インターフェースはType-Cを純増

そして、3つめには、インターフェースである。従来モデルから搭載している有線LANポートなどのポートやスロットはすべて継続したのに加えて、新たにUSB Type-C端子を1つ追加。さらに、USBポートを左右どちらからも利用できるように配置するなど、使い勝手も維持している。これらの取り組みも重量増につながるものだが、それでも、こうした使い勝手へのこだわりは捨てなかった。

さらに、堅牢性についても、妥協していない。画面まわりの負荷がかかりやすい場所の剛性を高める工夫を凝らし、天板前面加圧試験や、机の上からの落下を想定した試験をクリアする仕様は、従来通りに維持した。

  • インターフェース類にも妥協がない

「機能強化で新たに加えた部分を考えれば、50gの削減どころではなく、70g程度の削減に挑戦したのと同じ」と、松下マネージャーは笑う。

部品のばらつきで試作機が「710g」に

だが、9月になって、開発チームに激震が走った。組み上げた試作機を計測したところ、710gという数字が出てしまったからだ。

「カタログを印刷するためには、1カ月後にはスペックを決めなくてはならない。この1カ月で、10g以上を削ることができるのか。そのときは、焦りばかりが先に立った」と、松下マネージャーは振り返る。

最大の理由は、部品のぱらつきにあった。とくに、天板の塗装品質を高めるために再塗装したものが、この重量増に影響した。実際、今回の698gを達成しているのは筐体カラーがピクトブラックである。層が多く塗装することになるガーネットレッドで、製品を作ろうとすれば、重量は700gを超えることになってしまうという。それだけの微妙な差が、重量に影響していたのだ。

そこで、協力会社からの調達においては、再塗装したものではない天板だけを入荷してもらうようにしたという。

さらに、キーボードの快適な入力を支えている72本のネジも軽量化したものに変更して、新たに発注。基板もさらに軽量化する形で見直しを行い、ヒンジやヒートシンクにも軽量化するための工夫が凝らされた。

「最後の最後まで重量を落とすための努力を続けた」(松下マネージャー)。残り1カ月という段階で、ほとんどすべてのものをもう一度見直すという作業に取り組んだともいえるのだ。

このとき、開発チームには、2つの妥協案が提示されようとしていた。