スタンフォードでキャッシュレス社会に衝撃

CANDY HOUSE創業者であり、CEOのジャーミン氏は、1988年の台湾生まれ。日本の東京大学にあたる、台湾大学を卒業したあと、日本を訪れます。大阪で2年間を過ごしたのち、渡米してシリコンバレーにあるスタンフォード大学に留学しました。スタンフォード大学での生活が、スマートロック「SESAME」を生み出すのです。

  • SESAME

    CANDYHouseのCEO ジャーミン氏

「大学を卒業して2年ほど、語学学習で日本に住み、2013年にロボット工学を学ぶためスタンフォード大学に入りました。そこで衝撃を受けたのが、みんなキャッシュレスで生活していたことです。自分は外出するとき、財布とカギと携帯電話を持つのが常識でしたが、アメリカでは財布を持たない時代がきていました。ならば、つぎはカギも持ち歩きたくないと考えます。そんな日はすぐに来るのだろうと思いました」(ジャーミン氏)

スマートフォンで操作できるスマートロックを作ろうと考えたジャーミン氏。2013年当時、アメリカではすでにスマートロックが登場していたものの、そのほとんどはドアノブなどと一体化したビルドインタイプ。学生寮に住んでいたジャーミン氏の場合、スマートロックを取り付けられなかったため、ドアノブに後付けできるタイプのスマートロックを開発することにしました。当時3Dプリンターのブームが訪れており、自分で2,000ドルの3DプリンターをAmazonで購入して試作品を作り始めました。

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    スタンフォード時代に作った試作版SESAMEの写真

ほどなく試作品は完成します。この時点では強度不足などもあり、市販はできないレベルだったそうですが、これが北米で初となる後付けスマートロックの誕生につながります。

「スタンフォード大学の周辺には多くのベンチャーキャピタルがあります。そこで日本系や中国系のベンチャーキャピタルをまわり、SESAMEの試作品を見せて量産のため出資元を探しました。結果として中華系のベンチャーキャピタルから30万ドル(約3,600万円)の開発資金を出してもらい、アメリカのクラウドファンディングサイト『KickStarter』でも1億4,000万円の資金を調達しました」(ジャーミン氏)

この資金でSESAMEの量産体制に前進します。とはいえ、開発は一筋縄ではいかなかったそう。最初に作ったモデルのギアは耐久性が低く、200回ほどサムターンを回すと破損してしまいます。また、モーターも既製品では動作が遅すぎたり、消費電力が高かったり、動作音がうるさすぎたりとちょうどいいものがなく、SESAMEにとってベストな状態になるよう既存のモーターをカスタムすることになりました。

また、後付けタイプのSESAMEは軽さを重視して、ほとんど金属を使わない構造を採用したため、求められる耐久性を確保するまで、試作に約2年かかったのです。

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    左がアメリカで一般的なのサムターン。SESAMIもそのぶん大きい。右が日本向けに開発したSESAMI mini