iPhone発表のスペシャルイベントでデモを披露したARに対応するアプリ「ギャラガ」を、iPhone XS Maxでプレイする機会があった。プレイしてみると、この大画面とステレオスピーカーに別の意味があるのに気付いた。

  • イベントのステージでの「ギャラガ」のデモ

iOS 12で採用されたARKit 2によって開発されたARアプリでは、同じ空間に複数の人が参加可能となる。デモプレイは3人で行われたが、3人がそれぞれiPhoneを手にし、1つのステージを同時にプレイし、競えるようになる。

AR版のギャラガは空間上に現れる敵機を打つシューティングゲームで、自分で動きながら敵を追いかけられる。プレイ中は、視界がARによって合成された空間で覆われ、ゲームの世界のサウンドで聴覚が満たされる。

ARは視覚だけでなく、聴覚にも作用する。デジタルオブジェクトのある方向から音が聞こえてきて、自分の動きが変化すると、そ音の左右のバランスや大きさも変化し、対象のデジタル物体に「近づいた」という感覚を演出する。音に関して言うと、視覚なしのARで楽しめるコンテンツが存在するほとだ。

2Dの映像の世界から、「音は映像を規定する」というテーゼがあった。これは、CMディレクターとして活躍した佐藤雅彦氏が映像作りのなかの「ルール」として提起していたが、人が知っている音が鳴れば、実際の映像を示さなくても、何が起きたのか理解できる、というものだ。

様々な状況をゼロから作り出すARにおいて、この音のリアルさは表現として非常に重要であり、iPhoneのスピーカーのステレオ化は、AR表現のしやすさや没入感を更に高める効果があった。

AppleはVR以上にARに投資しており、ゲームや教育などの用途だけではなく、あらゆるアプリがARの表現を採用するのを推奨している。

2018年モデルのiPhone XS、iPhone XS Max、iPhone XRはいずれもスピーカーを刷新しており、画面サイズが大きくなっていることから、サウンド体験は飛躍的に向上した。ARは映像に注目が集まりがちだが、音の面でも、新iPhoneはARへの対応をより深めている、と評価できよう。

松村太郎(まつむらたろう)


1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura