では、価格を実現する他の方法を考えてみたい。ふりかえれば、iPhoneが登場した2007年からの5〜6年間、米国をはじめとするiPhone販売国で、649ドルのiPhoneを2年間の通信契約を前提に199ドルで販売する仕組みを作り、iPhoneの価格維持と顧客に対して身近な価格で入手できる方法を提供してきた。このことは、スマートフォンそのものを普及させる原動力ともなってきた。
既に先進国ではスマートフォンが十分に普及し、より自由さを求める販売スタイルへと移行したが、新興国で再び、iPhone普及のための施策として検討してみてはどうだろうか。
例えば6.1インチの液晶全画面モデルとして登場すると噂される次期iPhoneについて、同じような契約とセットにした端末提供プランをキャリアとともに手掛けるのも良いかもしれない。この戦略は、サービス部門の拡大を狙うAppleにとっても有効な手段と言える。
iPhoneが初めて市場に投入されてから、「iPhone Agreement」と言われるiPhone販売キャリアとAppleとの間で交わされた契約の中身が、日本の公正取引委員会の調査報告書で明らかになっている。そこでは、強制ではないものの、iPhoneの調達台数、端末の購入補助金やiPhoneプランの提供、下取り端末の取り扱いなどについて定められてきた。
iPhone Agreementやそれに類する契約は、独占禁止法のリスクが存在し、手が出しにくいかもしれないが、Appleがブランド力と世界同一の製品の新興国での勢力拡大を考えると、そうした新しい販売の方法に取り組むべきだと考えている。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura