報道陣の囲み取材に応じた審査委員長の立木氏は、神島高校優勝の決め手について「決定的瞬間じゃない“ズレ”の存在がスゴくよくて、家族の雰囲気をよく捉えているのが決定的によかった」と評価します。
8枚1組の組み写真は、すべていい写真になるというのは難しいそう。「最低1枚、できれば2枚、審査員の心に引っかかるものがあればいい」と立木氏は指摘します。その選択が優勝の鍵を握るわけですが、神島高校は「この3日間の試行錯誤が実った」(立木氏)といいます。
神島高校、実はセカンドステージ終了まではトップではなかったそう。「初日で(上位チームが)決まってしまうと、下の順位から上がって優勝するのは(これまででは)珍しい。逆転に次ぐ逆転だった」(同)そうです。
そのような逆転劇を演出した神島高校のファイナルステージの作品。この感想を聞かれた立木氏は、「1枚目は今までこういうポーズがなく、たいていは被写体に正対してしまっていた。振り返っているところもいいし、ライティングもいい」と称賛します。2枚目の写真は「夫婦関係で奥さんが前に来て、お父さんが憮然としているのもリアリティがある」、7枚目の家族写真は「整列する前に撮っていて、すき間を狙ったのが一番面白い」と絶賛しました。
この家族写真は、作品としてはいい写真ですが、「写真を家族に贈りたいと思った時に、これでは家族は納得しない」(同)というような写真です。そうした“ズレ”のある写真の面白さが高評価だったようです。
1つのシーンは露出を変えて撮っておきたい
そんな劇的な幕切れとなった第25回大会でしたが、初めての取り組みとしてカラーとモノクロ指定のテーマを設けました。モノクロ撮影が多いという神島高校のようなチームがある反面、モノクロをあまり撮らないというチームもありました。
立木氏は、「カラーで写した写真をモノクロにするのではなく、写すときからモノクロにしてもらう縛りでしたが、これはスゴく練習になる」と言います。撮影してすぐに、カメラのモニターで撮影した写真のだいたいの雰囲気が分かるので、立木氏は選手たちに「何枚か撮れる場合は露出を変えて撮影して」と話していたそうです。
「大会全体として、露出がオーバーめでコントラストが弱いものが多かった」(同)そうですが、露出を変えた写真を撮っておけば、モノクロ写真として適した露出などが肌感覚として分かるようになる、というのが立木氏の考えです。「暗室でプリントする時代には、そういうのが体に染みついていた」(同)。
もはやスマートフォンなしの生活がありえず、誰もがスマートフォンで写真を撮る時代になりました。カメラで撮影する高校生たちには、こうした撮影の仕方を学んでもらうことで、それが体に染みついていけば「スマートフォンでも使える」と立木氏は言います。
さて、そんな初の試みもあったテーマですが、実は過去の写真甲子園では「テーマを決めない時代もあった」(同)そう。しかし、そうすると風景写真が多くなってしまったとのこと。これは高校生に限らず、年配のアマチュアカメラマンでも風景写真になりがちだといいます。
立木氏をはじめとした審査員は、講評で繰り返し「人との関わり」を強調していました。コミニュケーションを重視する立木氏は、「世の中に出てコミュニケーションができるツールとして写真はちょうどよい存在」と話します。今回の大会では、普段人物写真を撮らないというチームがコミニュケーションの楽しさを表明していて、「生徒の口からそのような感想が出たのはうれしかった」と立木氏は笑顔を見せます。