撮影後は、毎回「セレクト会議」が行われます。これは、テーマに沿った8枚の写真を選んでストーリーを組み上げる作業で、時間は2時間ほどと決して長い時間ではありません。どんなにいい写真でもテーマやストーリーにそぐわなければ使えませんし、逆にいい写真が撮れたので、それをキーにしてストーリーを組み上げる、という方向性もあるでしょう。
そうした作業を、1チーム3人で相談しながらセレクトします。PC上でチェックして納得したものをプリントし、8枚を選んで一つの組み写真として組み上げていく作業は、チーム内で綿密な相談が必要になります。途中、20分間だけ監督の先生が指導できるテクニカルタイムも用意されています。
このセレクト会議のテクニカルタイムだけは、報道陣も会場内の模様を見学できました。真剣な表情で写真を見つめるその姿には緊張感が漂いますが、高校生らしい笑顔も見られて、楽しんで写真に取り組んでいる様子がうかがえました。
完璧な写真だけがいい作品を作るわけではありません。「高校生らしく、既存の概念にとらわれない創造的な1枚の写真を撮った選手」に贈られる「キヤノンスピリット賞」に選ばれた香川県立坂出商業高校の1枚は、日中シンクロを使った写真です。レンズフードでケラレが発生してしまった写真ですが、それが面白い効果を発揮して審査員の目に止まったようです。
作品を提出すると、毎日公開審査が行われます。3回の公開審査は、写真家の立木義浩氏を審査委員長とし、同じく写真家の長倉洋海氏、鶴巻育子氏、公文健太郎氏、フォトキュレーターの小高美穂氏、北海道新聞社写真部次長の野勢英樹氏の6人が審査します。
最初にチームがプレゼンをして作品の意図などを説明したうえで、会場のスクリーンに作品が表示されます。会場には、多くの観客も詰めかけていて、写真甲子園が地元の人に根付いていることが分かりました。
審査員の講評は、時に厳しい言葉もかけられることもありましたが、選手たちの刺激になったことでしょう。具体的な撮影のアドバイスだけでなく、撮影に対する心構えや被写体との距離感といったプロならではのアドバイスも、聞いていて参考になる話ばかりでした。
最終日の審査が終わると、最後に審査発表が行われて優勝校が決定します。今大会で優勝した神島高校は、昨年に引き続き2連覇を達成。昨年の優勝メンバーの2人が参加した神島高校ですが、審査委員長の立木氏によれば「逆転だった」ということで、3日目のファイナル審査で一気に評価を上げて優勝を勝ち取りました。
準優勝は神奈川県立横浜清陵高校が獲得。優秀賞は香川県立坂出商業高校、愛知県立豊橋南高校、埼玉県立芸術総合高校、沖縄県立浦添工業高校、東京都立総合芸術高校の5校が選出されました。
審査の講評でよく聞かれたのが「突き抜けろ」という言葉でした。小さくまとまってしまう写真が多い、という審査員たちの問題意識が現れたのでしょう。初日にチャレンジして監督に怒られたので、2日目に大人しい作品になってしまったというあるチームは、審査委員長の立木氏が「監督は俺が怒っておく」と背中を押して、3日目に再び挑戦的な姿勢を見せる場面もありました。
人に声をかけて撮影することがほとんどなかったというチーム、モノクロをあまり撮ってこなかったというチームなど、この大会でこれまでになかった撮影したことで殻を破り、1日ごとに成長していく姿も見られました。審査員たちも、「人とのかかわりが大事」(野勢氏)、「人の撮影は人との関係が大事」(公文氏)と繰り返し指摘しており、この3日間で写真を通したコミニュケーションがうまくなった選手たちを称賛していました。
今年の写真甲子園は神島高校の2連覇で幕を閉じましたが、優勝メンバーの3人は3年生で来年は出場できません。来年の写真甲子園に出場する選手たちがどのような写真を撮り、どのように成長していくのかが楽しみです。