真夏の北海道で、全国の高校生が写真で競い合う「写真甲子園」(全国高等学校写真選手権大会)が開催されました。今年は第25回で、実に四半世紀の歴史を誇る大会となっています。
先に速報を掲載した「写真甲子園2018が閉幕、和歌山県立神島高校が2連覇!」の通り、今年の大会で優勝を勝ち取ったのは和歌山県立神島高校でした。この記事では、例年以上に熱い戦いが繰り広げられた「平成最後の写真甲子園」の模様をお届けします。
映画にもなった高校生たちの暑い夏がやってきた
昨年、「写真甲子園 0.5秒の夏」と題して映画化された写真甲子園は、高校生が写真の腕を競い合う競技大会として知られています。全日制、定時制を問わず全国の高等学校の生徒が対象で、3人1組で共同制作した組み写真によって評価を決めます。写真部や写真サークルに属している必要はありません。
全国各地域のブロック枠16枠、選抜枠2枠で選出された18校が“写真の町”として知られる北海道東川町に集まり、3日間にわたって撮影を実施しました。
今回は日程がやや変則的で、1日目の第1ステージが8時20分から、第2ステージが11時15分から、2日目の第3ステージは7時20分から、第4ステージは17時30分から、そして3日目の第5ステージは「自由」ということで、何時から撮影を始めてもよいことになっていました。2日目は、夕景の撮影も可能な17時30分からという遅い時間の第4ステージが設けられたこともあって、例年に比べて時間も場所もバラエティに富んだ設定になっていたといえます。
会期中は毎日公開審査が行われ、夜には翌日のスケジュールが発表されるので、当日の反省と翌日のテーマの検討も行わなければなりません。
選手たちには、特別協賛のキヤノンおよびキヤノンマーケティングジャパンより、デジタル一眼レフカメラ「EOS 9000D」と8GBのSDメモリーカード2枚が貸し出されました。カメラの違いで差が出ないように、公平を期すための対応です。また、写真甲子園では撮影後の補正や編集などはすべて禁止で、JPEGでの撮って出しがルールとなっています。クリエイティブフィルターや画像のトリミング、アスペクト比の変更はできず、ホワイトバランスとピクチャースタイル、露出補正のみ変更できます。
シャッタースピードで動きを表現したり、絞りで主たる被写体を強調したり、ISO感度で暗所でも明るくしたり、露出補正でメリハリをつけたり、そしてもちろん構図を工夫したりといった、写真撮影の基本的な実力が問われます。じっくりと落ち着いて何枚もの写真が撮影できるシーンもあれば、とっさの一瞬でしか得られないシーンもあります。そうした忍耐力と瞬発力、そして被写体に出会う運をいかに引き寄せるかが勝負の分かれ目となります。
選手たちが徹底的に写真に向き合った3日間。ホームステイをしたチームが最後の題材にホストファミリーを選択したり、撮影のために何軒もの民家を訪問してようやく撮影許可がもらえたり、道行く人に声をかけて気さくに撮影に応じてもらえたりと、地域の人々との交流を楽しむ姿も印象的でした。
新たなテーマに苦戦する高校生の姿も
今回の全国大会の特徴は、1日目の第1/第2ステージが「色」をテーマにカラー写真のみで構成する制限が設けられたことと、2日目の第3/第4ステージでは「光」がテーマでモノクロ写真のみとなっていたことです。3日目の第5ステージはテーマが「自由」なので、カラー・モノクロ、静物・人物など、すべて自由に撮影できるというのも特徴的でした。
なかには「普段モノクロ写真を撮ったことがない」という選手たちもいて、そうしたチームは苦労していたようです。審査員で写真家の公文健太郎氏が2日目の講評で述べていた「モノクロ写真は撮るもの(被写体)やアングルがカラー写真とは異なる。カラーとモノクロでは考え方自体に違いがある」と指摘していましたが、そうした「違い」を意識して撮影できていたかどうかが評価の分かれ道になっていたようです。
実際、1日目のカラー写真では高評価だったのに、2日目のモノクロ写真では「昨日(1日目)はすごく良かったが、(2日目は)弱い」(審査員で写真家の長倉洋海氏)と評価されたチームもありました。フォトキュレーターの小高美穂氏も、講評で「モノクロでは光をどう捉えるか、光を観察することが重要」と話しており、高校生たちにモノクロ写真とは何かを伝えるためのテーマだったように感じました。ちなみに、今回優勝した神島高校は普段からモノクロ写真を撮っていたといい、ファイナル審査も得意のモノクロ写真で挑みました。
写真甲子園で難しいのが、どんな被写体を選んでどう撮影し、それをどのようにして8枚1組の組み写真という「ストーリー」に落とし込むか、という点です。1日目はカラー、2日目はモノクロで撮影する、というルールも難しかったように感じました。何を撮り、何を表現するか、各選手の自由な発想とその瞬間を写真として切り取る執念、そして「運」が求められる大会でした。
3日目のテーマは「自由」。撮影開始時間すら自由という完全にフリーの内容で、チームが最も得意なやり方で撮影できるものの、それだけに各チームの個性や実力が問われる難しいテーマだと感じました。
撮影できる時間は、最後の第5ステージを除いて各ステージとも2時間程度しかありません。限られた時間のなかで被写体を探して撮影し、ストーリーを組み上げるというのは並大抵のことではありません。講評で長倉氏が「テーマを絞り切れていない」、北海道新聞社写真部次長の野勢英樹氏が「最後のまとめ上げで苦労したのかな」と指摘するように、単にいい写真を1枚撮ればいいわけではないというのも、この写真甲子園の難しさであり面白さでもあります。