翌朝、朝食のあと、尾瀬探索に向かった。メディアはもちろん、BMWスタッフ、東京電力職員も一緒だ。

今回は丸沼ダム見学が主目的だったが、東京電力のねらいが尾瀬探索に隠されていた。実は尾瀬の約4割が東京電力の土地。もともと水力発電のために用地を取得したのだが、観光客の増加、住民の反対(最初は一人だけが反対運動)などがあり、計画を断念した。以降、保全という立場に回り、尾瀬の土地を守っている。ある意味、CSRといえるだろう。さらに国立公園特別保護地区にも指定され、開発は不可能になっている。

そして今回、尾瀬探索にメディアを招待したのは、尾瀬人気の復活のため。最盛期には約70万人が訪れていたが、現在は30万人ほどまで減ってしまったそうだ。これには、ある仮説がある。尾瀬人気が高かったころ、「夏の思い出」という歌がヒットし、小学校や中学校の合唱では、定番の曲となっていた。

尾瀬人気が低下している理由は?

ところがだ。現在はこの曲を歌う学校が激減しているという。それにともない、尾瀬の知名度が低下した。実際、筆者がよく行く居酒屋のアルバイトに「明日から尾瀬に行く」と伝えたところ、「それどこですか?」という返事が返ってきた。

さて、尾瀬ヶ原はまさに写真などでみる景観と一緒だった。広大な湿原の中に木道が延び、燧ケ岳(ひうちがだけ)や至仏山(しぶつさん)がみえ、白樺も点在している。実はこの木道、東京電力や群馬県、福島県、新潟県などによって設置されたものだ。もし、尾瀬を訪れることがあれば、木道の板を確認してほしい。設置した企業や自治体、いつ造られたのかといった刻印が押されている。

  • 左上:木道がどこまでも延びる、尾瀬おなじみの光景。右上:沼に燧岳が映る「逆さ燧」。残念ながら山頂部は雲に覆われていたが、これはこれで風情がある。左下:白樺林が点在し、高原の雰囲気を演出。右下:木道に刻まれた、TEPCOのマークと設置時期

ただ、それは気づいたときでいい。やはりみるべきは広大な湿原と点在する沼、そして豊かな植生だ。残念ながら尾瀬のシンボルともいえる水芭蕉のシーズンは終わっていたが、「ニッコウキスゲ」や「ヒオウギアヤメ」など、数々の花が咲いていた。本来、取材できたのだが、花の図鑑でも作るのかというくらい、さまざまな花を夢中で撮った。

  • 尾瀬の花々。左上:ニッコウキスゲ、右上:ヒオウギアヤメ、左下:オゼヌマアザミ、右下:コオニユリ