日本キャッシュレス化協会が主催した「キャッシュレスが創る未来」セミナーにおいて、アマゾンのAmazon Pay、「お金コミュニケーションアプリ」と銘打ったpring、そして台湾政府が主導する台湾Payについての講演が行われた。本稿では、各サービスの現状と戦略についてまとめた。

  • セミナーに参加した、(写真左から)アマゾンジャパンAmazon Pay事業本部本部長・井野川拓也氏、台湾モバイルペイメント副社長の徐文玲氏、日本キャッシュレス化協会専務理事・高木純氏、pring代表取締役CEO・荻原充彦氏

    セミナーに参加した、(写真左から)アマゾンジャパンAmazon Pay事業本部本部長・井野川拓也氏、台湾モバイルペイメント副社長の徐文玲氏、日本キャッシュレス化協会専務理事・高木純氏、pring代表取締役CEO・荻原充彦氏

拡大するAmazon Pay

アマゾンが提供する決済サービスのAmazon Payについて説明したのは、アマゾンジャパンAmazon Pay事業本部本部長の井野川拓也氏。井野川氏はまず、米Amazon.comの業績から説明し、2017年は1,779億ドルを売り上げ、そのうち北米が半分を稼ぎ、日本は1割程度。月間ユニークビジター数は、PC向けが1,652万8,000円、モバイル向けが3,558万3,000円となっているという。

アマゾンは2007年のお急ぎ便からスタートしたAmazonプライム、生鮮食品などのAmazonフレッシュ、Amazon Business、Amazon Echoといったように数々のサービスを展開している。そしてEC事業の要となっているのが決済サービスだ。

膨大な会員数を誇るアマゾンは、ECサイトという関係上、会員の住所やクレカなどの決済情報を所有している。その決済プラットフォームを外部に開放しているのがAmazon Payだ。アマゾン自体が販売主体となるリテールビジネス、事業者がアマゾン上に出品して販売手数料を徴収するマーケットプレイスに加え、アマゾン以外のサイトの支払いでAmazonアカウントを使って決済をするのがAmazon Payだ。

スタートは2015年。まずは配達サービスの出前館と劇団四季に対応した。アマゾン上で提供しづらい商材を扱うことから、この2サービスが選ばれたと井野川氏。

利用する際は、決済時にAmazonアカウントを指定するだけ。住所と決済情報が既にAmazonアカウントにひもづいていれば、それがそのまま使われるため、ユーザーにとっては新たに会員登録をする必要もない。マーケットプレイス保証の対象となるため、商品の問題などに対しても安心して利用できるのもメリットだろう。

販売事業者側にとっても、新規ユーザーの獲得に貢献でき、商品カードに入れて実際に買う割合というコンバージョンの向上、アマゾンと同様のクレジットカード不正検知の仕組みを使った不正取引対策も可能だ。

Amazon Payのパートナー150社の調査では、コンバージョンは平均65%が93%まで改善したという。これは、カートに商品を入れたのに住所登録などの手間によって離脱していた人が、購入するようになったとされる。さらに、未導入企業400社を比較したところ、未導入企業の1年間の売上増は5%にとどまったのに対し、導入企業は56%増だったという。

例えば、コメ兵ではマーケットプレイス保証によって、クレジットカードの不正利用に対するチャージバックが実質ゼロになったという事例があったという。「数千社に上る導入実績があり、決済額も事業者も順調に伸びている」(井野川氏)。

このAmazonアカウントとAmazon Payを核として、今後様々なサービスとデータを統合して、「より良いサービスを提供したいと思っている」と井野川氏。そうした中で米Amazonは、オンラインのショッピング体験を実店舗へ拡大しようとしている。

QRコードをチェックインすると、プライム会員の割引価格で書籍を購入できるAmazon Booksや、無人店舗のAmazon Go。そのほか、ファッションブランドのCalvin KlineやModa Operandi、ハンバーガーチェーンのTGI Fridaysとの協業も行っており、店舗での購入にAmazonアカウントが利用できる。 店舗が独自アプリを作る必要がないため、新たなコストをかけずに会員サービスを提供できるそうだ。

このほか、スマートスピーカーを経由し、音声を通じて購入できる「ボイスコマース」も米国では進めており、「声を使ったコマースはこれから増えるのでは」と井野川氏は言う。

なお、アマゾンにはグローバルのパートナー認定プログラムがあり、今回のセミナーでコーディネーターを務めたキャッシュレス化協会専務理事及び、NIPPON PAYの代表取締役社長の高木純氏に、認定書を手渡す一幕もあった。井野川氏は、「NIPPON PAYとは色んな取り組みをしている」と語っており、今後の両社における取り組みの拡大も期待させた。

井野川氏は、国内におけるAmazon Goやリアル店舗でのAmazon Payなどの具体的なロードマップは示していないが、リアル店舗でもアマゾンの購買体験をサポートしていきたい考えを示している。