どのくらい古くからあるかというと、明治期に薩摩島津家が運用していたというのだから、相当に歴史がある。そして明治後期になると、数多くの水力発電所が建設された。廃止されたものもあれば、今でも現役で運用されているものもあるので、相当に息が長い。
今回、見学させていただいたのは、東京電力が保有する佐久発電所。昭和3年(1928年)に建設されたということだから、こちらもかなり古い。年齢で表すと90歳とのことだ。東京電力によると、細かい補修などは行われているが、基本的な構造は当時のままだという。
ちなみに、佐久発電所は、長野県の佐久市にあるわけではない。関東水力電気の創設者である浅野総一郎の妻の名、「佐久」からそう名付けられた。彼女は発電所の開設の1年前、昭和2年に亡くなられた。それを悲しんだ浅野が、発電所に佐久の名前を付けたといわれる。なお、佐久発電所は群馬県・渋川市にあり、長野県・佐久市とは無関係だ。
取水用の綾戸ダム
まず案内されたのは、利根川の水を堰き止める綾戸ダム。ダムと呼ばれているが、厳密にはダムではないらしい。日本の河川法では高さ15m以上の堰堤を有するものがダムと呼ばれるが、綾戸ダムは約14mなので厳密には“堰”なのだという。とはいえ、放水される瀑布のような景観は迫力満点。しかも、堰は約120mにわたって利根川を堰き止めている。
驚いたのは、この堰の上の通路は、関係者以外立ち入り禁止というわけではないこと。というのも、ダムができる前は「あかみち」(道路法が適用されない道。地図上で赤線により記載されるのでこう呼ばれる)だったそうだ。民家とその対岸にあるバス停を結ぶため、一般的な通路として使われている。そのため、通路両サイドの柵は高めに設計してある。
さて、この綾戸ダムで堰き止めた水が佐久発電所の源になる。約150トンの水を放水しているが、そのなかから47トンを取水。国土交通省に定められた水利権により、この量までしか取水できない。また、漁協や用水組合とも協議して放水量を調整している。