家の中のデバイス争いの新機軸としてスマートスピーカーが登場し、これに遅れを取っているのがApple、という見方は間違いない。そうしたなかで、AppleはWi-Fiルーター製品であるAirPortの製造と販売を終了するアナウンスを行った。
Wi-FiルーターのAirPortシリーズや、内蔵ハードディスクにバックアップを取ることができるTime Capsuleは、流通在庫限りで順次販売終了となる。AirPortは、Wi-Fiがまだ主流でなかった1999年に登場し、簡単な設定を武器に一定の勢力を拡大してきた。
前述のハードディスク内蔵モデルのTime Capsuleは、Wi-Fiルーターの付加価値を高める役割を担った。しかし、ワイヤレス主体の時代が進行していく中で、選択肢の幅も広がり、また新しい通信方式のサポートが後手に回るなど、AirPortを選択する動機が薄れていったことも事実だ。
筆者は、2009年に購入したTime Capsuleを利用していたが、周囲のWi-Fiの普及で混線による接続の不安定さが極まり、2015年に登場したGoogleブランドのAC1900ルーター「OnHub」(TP-Link製、IEEE802.11ac対応、1900Mbpsサポート)に乗り換えた。
その後、バックアップはDropbox、OneDrive、そしてiCloudドライブやiCloudフォトストレージなどのクラウドサービスが充実した結果、家の中にストレージデバイスを置く必要性がなくなってきたため、Time Capsuleの優位性も薄れてしまった。
AppleがWi-Fiルーターから撤退する一方で、GoogleはさらにWi-Fiルーター製品の充実を図った。2016年にGoogle Wifiという小型のルーターをリリースし、2018年4月から日本でも発売した。この製品のポイントは、1台ではカバーしにくい一戸建てなどの住宅に複数のルーターを設置し、1つの大きなネットワークとしてカバーできるメッシュネットワークを念頭に開発されている点だ。
Google Wifi自体はAC1200(2x2)と、前述のOnHub(AC1900 3x3)に比べると性能面で劣る一方、3個セットで269ドル(日本での実売価格は税別39,000円)と比較的安い価格で販売しており、アプリによる簡単な設定もあって、シリアスに速度を追求しない家庭向け製品として支持を集めている。
もちろん、この製品にはGoogleアシスタント機能は搭載されないが、Google Home miniと似たコンパクトなデザインを実現しており、もしかしたらこの2つの製品が融合する姿も見られるのかもしれない、と期待感が高まる。
部屋に何が必要なのか、改めて考える
Appleは、iOSで早くからスマートホームを連携させるHomeKitを打ち出し、Apple TVやiPadなど、常に自宅にあるデバイスを活用して遠隔地からのオートメーションに対応させるなど、人と一緒に出入りするデバイスと、家の中に設置されるデバイスを非常に巧みに1つのスマートホームのシステム構築に活用してきた。
多くの人が手にしているスマートフォンとスマートホームのシステムの統合は、個別のスマートホーム製品やAmazonとの差別化として十分に優位性がある。にもかかわらず、HomeKit対応製品は増えず、キラーとなる製品も生まれてこない状態が続き、Siriから電源のON/OFFを行うのがせいぜいだ。
とくに、ウェアラブル部門に続いてホーム部門をカテゴリとして成立させたいAppleとしては、自宅の中に設置されうるデバイスの種類を増やすこと、そしてそれらがスマートフォンといかに連携するのか、という全く新しい方法や需要を喚起するスタイルを提案しなければならないだろう。