ただ、こうした購読サービスの本丸はテレビだ。

現在、米国市場ではケーブルテレビや衛星放送の契約を打ち切る「コードカット」の流れが若い世代を中心に進んでいる。実際、統計データにもその動きは表れており、2015年にはケーブルテレビの契約者数が初めて1億件を下回った。直近の2017年は9870万件になり、2020年までに9500万件へと減少していくと予測されている。

ただ、この流れはインターネットサービスそのものの速度向上や、スマートデバイスのさらなる普及、インターネットを介した映像ストリーミングサービスの進化を加味しない、ケーブルテレビ各社にとって最も安心できるシナリオだろう。

つまり、コードカットは顕在化しているものの、まだ本格化していないと見ることができる。そして、コードカットの本命サービスを狙っているのは、他ならぬAppleだ。しかも、すべてをAppleが取りそろえるのではなく、iPhoneで成功してきたアプリを活用するビジネスとして、である。

Apple IDに集約できるか

オンラインの音楽や雑誌、映像コンテンツの定額制サービスは、月額10ドル(約1,100円)前後という購読料が一般的だ。一方で、現在米国のケーブルテレビパッケージは、インターネット接続を含み月額100~200ドル(約11,000~22,000円)で推移している。筆者が米国で利用するComcast Xfinityは、インターネットのみで50ドル(約5,500円)以下に圧縮できる。

インターネットをケーブル経由で契約してNetflixだけを契約した場合、合計でも60ドル(約6,600円)に抑えることができ、40ドル節約できる。あるいは、Huluで配信されているコンテンツが見たければ、必要に応じて切り替えたり、見たいドラマのシーズンだけHBO(ケーブルテレビ)を追加する、といった自由度がある。

いくつかサービスを追加しても、ケーブルだけで賄うよりコストがまだ安く、さらに放送時間を気にせず自由に視聴できるようになるのだ。

一方で、複数のアプリに分かれるテレビ体験は不便さを極める。購読管理やコンテンツ管理が難しくなっていくからだ。コードカットが進めば進むほど、Apple IDによる購読管理や、TVアプリによる視聴管理が重要性を増してくる。

前述の通り、コードカットの動きは、全体から見ればまだ緩やかなレベルといえる。しかし、Appleは大きく状況が動くタイミングまでに、自社での映像コンテンツの開発や購読機能の整備、視聴機能の整備を進めているとみられる。

2018年になんらかの転機が訪れるかどうか、注視していきたい。