プレミアムブランドも味わった規模拡大の蹉跌

200万台という数字だけが先行し、それに合わせるようにクルマを投入するようになれば、それも危険だ。なぜなら、ドイツメーカーが200万台を目指すために車種を増やした際、新車の仕上がりが車種によってバラつき、ことに新登場の車種においては、完成度が未熟な面が散見されたからである。同様のことがマツダでも起こる可能性はある。

それでも、ドイツのプレミアムブランド各社が販売台数を落ち込ませずに済んだのは、確固たる企業メッセージに裏付けされたブランド力が市場に浸透していたからだ。そのために長い年月を要している。

  • BMW「M760Li xDrive」)

    ドイツのプレミアムブランドも数を追いつつ完成度の高いクルマを作るのにはてこずった(画像は2018年2月の日本自動車輸入組合試乗会で撮影したBMW「M760Li xDrive」)

働き方改革で、仕事の効率化が求められる昨今だが、ものづくりの領域は試行錯誤の繰り返しであり、失敗も成功のための貴重な経験の下地になる。だが、失敗の修正には時間と手間が必要で、仕事の効率化とは逆の向きにある。かといって、従業員の数を急に増やせるわけでもない。

失敗を減らし、効率よく新車開発を行うにはコンピュータシミュレーションを多用せざるを得ず、結果、性能確認のための実走行試験は開発の後ろの工程へと回される。万一そこで不具合が生じても、後戻りはできない。そして不十分な製品が新車として売り出されることが起こりかねないのである。それでは結局、ブランドの印象を悪化させかねない。

ホンダは規模を追い求めて失敗した。つまり、数を前面に打ち出すことには危険を伴うのだ。マツダが数を主張するのであれば、その反作用にも眼を向けておくべきだろう。

ブランド強化に数字がついてくる姿が理想

アウディは、2011年に「アーバン・フューチャー・イニシアティブ・サミット」を開催し、2030年のクルマの姿を模索し始めた。そして、プレミアムブランドとしてクルマを存続させる方法を今も考え続けている。そのサミットに参加した話を当時、マツダの金井誠太副社長(現会長)に伝えると、「今のマツダでは2020年を考えるのがようやっとだ」との答えであった。だが、200万台体制を目指す今であれば、もう考え始めていなければならないはずだ。

  • マツダ「CX-5」

    2030年を見据えた技術開発の長期ビジョンでは、内燃機関を磨きこんでいく姿勢を示しているマツダ。この方針とブランド強化がどのように結びつくのかに注目したい(画像はマツダ「CX-5」)

電動化や自動運転と、「Zoom-Zoom」や「Be a Driver」がどう結びつくのか。以前、マツダの藤原清志専務にインタビュー(電動化について自動運転について)した際にヒントが語られたが、それが消費者の腑に落ちるようにする活動が必要ではないだろうか。

2024年に200万台を目指すと表明するより先に、マツダが宣言すべきはブランドを一層強化する商品の方向性であったのかもしれない。結果として、あとから数(販売台数)がついてきたという道を同社には歩んでほしいと願う。