実用性は? 商業として成り立つのか
ロボットアニメ世代(筆者もその一員だが)には非常に「刺さる」プロジェクトではあるが、まだまだ「人が乗って変形できる」という最初の段階をクリアしたばかりであり、日本に新たな電動自動車メーカーが増えたというわけではない。現段階では、実用性という意味ではほぼゼロに近い。そのためか発表会の後に開催された質疑応答では、実用性のない「高価なおもちゃ」という批判があるのでは、といった意地の悪い質問も飛び出たほどだ。
ただ、前述したようにJ-deite RIDEで得られた変形メカニズムなどは三精テクノロジーズがアミューズメント機器に流用するとしており、技術的な側面からは実用化の目処は立っているわけだ。では、制御ソフトウェアのほうはどうだろうか。実際に「車から人型に変形するロボットの制御」というのは、他に流用が利くものなのだろうか。仮にアミューズメント機械に流用できるとしても、台数がそれほど多く出るとは考えにくい。
そんな、素人考えでは採算の取りにくい事業へ参加している理由を、アスラテックの吉崎航チーフロボットクリエイターに伺ったところ、基本的には将来の開発へ向けて経験値を高めているという段階であり、現時点で採算をどうこういうレベルではないとした上で、J-deite RIDEの制御ソフト「V-Sido OS」は、2014年に先行して開発された、全高1.3mの「J-deite Quarter」と同じ制御系を採用しており、たとえばテスト機として小型機を作り、大型化する際にどのように応用するかについて、重要な知見が得られたという。
同社の「V-Sido OS」は小さいものではホビーロボットから、ペッパー、クラタスといった人間大〜超大型サイズの二足歩行ロボットまで、さまざまなサイズの機体を制御してきた蓄積がある。J-deite RIDEについても、全身のセンサー類からのデータをモニタリングしているとのことで、今回のプロジェクトでは、将来の開発において小型機を先に作り、それを大型化したロボットを制御する際のノウハウを得られたわけだ。
また、自動車と人型での変形というのはあまり実用的ではないように感じられるが、変形機構自体は、たとえば何らかの工作ロボットがトラックに乗るように四角く変形するといった、コンパクト化に高価的な機構の開発や制御に応用が利くかもしれない。そもそも将来は「移動・運搬用のロボット」と「それに合体して作業する個別のロボット」というような分業も十分考えられるわけで、変形・合体をアニメっぽい、おもちゃっぽいとバカにする理由はないのだ。
J-deiteプロジェクトは、将来ロボット史をひも解いたとき、実は案外重要な位置付けにおかれることになる可能性もある。一見採算性のない事業にソフトバンクグループが投資しているというのも、案外こういった将来を見据えた先行投資なのかもしれない。