料理をしない独身男性や、互いに忙しい共働き世帯にとってありがたい存在なのがレトルト食品だ。丼ものの具やスープなど、販売されているレトルト食品の種類は豊富だが、やはり一番に思い浮かべるものはレトルトカレーではないだろうか。加熱するだけでおいしいカレーが手軽に食べられるのは、なんともありがたい限りである。
近年は従来の製品とは一線を画そうと、さまざまな趣向を凝らしたレトルトカレーも多く販売されている。その代表的な例が「ご当地レトルトカレー」だ。各地の名産品や特産品を盛り込んだカレーに、色味や辛さを際立たせたカレーなど、実に豊富な種類のレトルトカレーが各地域にはある。
そんな全国の「おらがまちの味」を取りそろえている店舗が東京都・西浅草に居を構える「カレーランド」。店舗内に置かれているご当地レトルトカレーは、優に200種類を超える。いったい、なぜこのようなお店を開くことになったのか。店舗を経営する猪俣早苗さんにお話をうかがった。
「カレー遠征」を重ねた末に開店を決断
カレーランドが誕生するきっかけとなったのは、早苗さんの母親の気遣いだったという。
「私の母が5年ほど前に島根県に行った際、夫(猪俣吉章さん)のカレー好きを知っていたので、ご当地レトルトカレーを初めて買ってきてくれたんです。5種類ぐらいあったのですが、その中で特に夫が味に感動したのが『奥出雲和牛カレー』(税込650円)でした」
吉章さんは毎日のようにカレーを食べるほど、大のカレー好きだった。一方の早苗さんはそこまでカレーが好きではなかったそうだが、いちじくやしじみなど、珍しい食材を用いたご当地レトルトカレーに「面白さを感じました」と笑う。
以来、アンテナショップや道の駅などで各地のレトルトカレーを購入するように。最初は週に1回、近隣の道の駅などに買い求めに行く程度だったが、次第にカレー探しの度はエスカレート。北は北海道から南は九州・沖縄まで、時には2~3日泊まりがけで早苗さんは「カレー遠征」に出た。いつしか、ご当地レトルトカレーのデータはかなり蓄積されていた。
「そこで『おいしいご当地レトルトカレーを集めて店を開いたらいいんじゃないか』と、カレーランドを始めました」
友だちにすすめたいものしかお店に置かない
かくしてオープンしたカレーランド。その店内には、「三陸まるごと あわびカレー」(税込2,900円)、「ちゅら海の防人カレー いなむどぅち」(税込540)、「臭やカレー」(税込1,080円)などのユニークなご当地レトルトカレーが所狭しと並んでいる。
早苗さんによると、全国には2,000種類以上ものご当地レトルトカレーがあるそうだが、カレーランドではその1割に相当する約200種類を取り扱っている。そして、店内の商品を常に入れ替えることで、何度足を運んでも新しい発見があるようにしている。
どのようにラインナップを厳選しているかを聞いてみると、「まずは実際に一度食べてみて、すすめたいと思ったものを置くようにしています」。いくらパッケージがおいしそうに"盛られて"いても、肝心の味がおいしくなくてはガッカリしてしまい、食べた人のご当地レトルトカレーに対するイメージも損なわれてしまう。
また、カレー探しの過程で、早苗さんが購入前に店員に味を尋ねても要領を得ない返事しかこなかったり、パッケージ写真よりも具が少なかったりしたこともあった。
早苗さん自身、もうそのような経験はしたくないと考えていたため、自身と吉章さんの舌で確認して「OK」を出したもののみ、業者から仕入れて販売するというルールを徹底。仕入れている定番商品も定期的に食べ、「肉の量が減っていないか」「味に変化はないか」などを細かくチェックしている。すべては「お客さまにおいしいカレーを食べてもらいたい」という想いからきているのだ。