iOSアプリ開発者にとっては、新たに大きなプラットホームが追加されることになるし、Macアプリ開発者にとってはAppleの主たるビジネスであるiPhoneへのアプリ展開の可能性が開ける。また既に双方にアプリを提供している開発者は、開発リソースの配分やビジネス自体の効率化が図られることになる。
統合が実現する過程で、Appleは、iPhone/iPad/Apple TV/Apple Watch/Macの5つのプラットホーム向けのアプリの開発を一度に行える環境を提供することになる。
もちろんMacアプリとApple Watchアプリで1つのアプリが果たす役割は何かと言われれば想像はしにくいが、既にAppleはプリインストールアプリで、各種プラットホームでの活用例を示している。
iMessageは、Apple TVを除くデバイスで利用できるメッセージアプリだが、これを例に、企業向けメッセージ/通話アプリを構築するなら、オフィスのデスクにいるスタッフと、Apple Watchを装着し、オフィス街での業務にあたるスタッフの間で迅速なコミュニケーションにフォーカスした体験を生み出すことができる。
Appleからすると、iPhoneで利用している定額制アプリを理由に、iPadやMacを選ぶユーザーへ訴求していくこともできるだろう。
あくまでMacとiPadの統合はないとしているAppleは、2017年、それぞれのデバイスの立て直しに奔走してきた。Macはアップデートのサイクルをより迅速にし、性能を求めるプロユーザーからの信頼を取り戻そうとしてきた。その結果、MacBookシリーズとiMacのアップデートに加え、iMac Proを登場させるなど、少ない手数ながら結果を残している。
一方iPadは長い低迷からの脱却が2017年のテーマだった。最大時にはAppleの売上高の20%を占めていたタブレット市場のトップランナーは、2年以上もの期間、前年同期比割れに沈んできた。2017年にAppleは、3月にリリースしたiPad(第5世代)の投入、iPad Proの刷新によって食い止めることに成功し、四半期の販売台数も1,000万台を上回る数字を記録することができた。
iPhoneに比べて発展のスピードが遅く、買い換えサイクルも長期化するMacとiPadをより有効活用していくために、iPhoneアプリとの連携を強化し、一連の体験を作り出すことに努めていく戦略は、即効性はないものの、販売基盤を作っていくための施策として有効に働くことになるのではないか、と予想している。
これに伴い、現在iPhoneやiPadの間で共有している通知の仕組みをMacとも共有したり、アカウント管理の共通化、セキュリティ情報の一括管理、データ連携など、OS側の連携強化にも期待したい。
(続く)
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura