Appleは常々「技術を最も早く世に送り出す企業を目指していない」という。最速ではなく最良、これがコンセプトだ。
Face IDについても同様で、スマートフォンにおける顔面認証についてはAndroid 7.0の標準機能として採用されているほか、光彩を含む認証は2017年に発売されたGALAXY S8にも採用された。ただ、2Dカメラによる認証だったため、写真などでのロック解除も可能であるという問題が生じていた。
AppleがTrueDepthカメラによって立体的な顔認証を採用した背景には、Androidで既に指摘されていた正確性を担保するという意味がある。既知の問題を回避するための技術開発に5年間あたっていたということなのだ。
今後、Androidスマートフォンが、同様の3Dカメラによる顔面認証セキュリティシステムを搭載していく可能性は高いとみられる。ただしそこには、コストの問題がより大きくなっていくことが予測できる。
プロセッサ、セキュアエレメント、そしてカメラシステムなどは、iPhoneと同じ規模の販売台数を確保しなければ、結果として割高になってしまうからである。Appleが新しい技術を採用しトレンドを創れば作るほど、Androidスマートフォンメーカーの利益を圧縮していく構造が、当面続いていくことになりそうだ。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura