AppleはShazam買収について、Apple Musicとの親和性を高めるという射程には留まらない施策を打ってくるはずだ。膨大な音楽データベースや認識技術は、機械学習や人工知能、検索の開発に取り組むAppleのSiriチームにとっても貴重な人材とノウハウを提供することになるであろう。さらに、音楽ビジネスやSiriの強化だけではない可能性がある。それは、拡張現実、ARだ。
Shazamは2015年から画像認識技術のプラットホームを発表しており、2017年3月にはこれをAR対応へと拡張していた。製品や広告、パッケージ、バーコードなどを読み取ることで、インタラクティブコンテンツやメディアを表示させることができる仕組みを実現し、すでにBeam Suntoryなどのプロモーションで活用している。
Appleは、ARアプリ開発向けに提供されているiOS 11のAR Kitを紹介する際、iOSが世界最大のARプラットホームであること、そしてARが次のイノベーションであることを強調してきた。現実世界にデジタルコンテンツを重ねたり、実際の人や物をデジタルで装飾したりする仕組みを、ゲーム以外のさまざまな分野のアプリでも導入されていく未来を説いている。
ShazamのAR技術は、商品や広告をARコンテンツやゲームへの入口として誘導する仕組みであり、特にマーケティング分野や、製品と組み合わせる専用アプリでの活用、公共空間のデジタル装飾などでの利用が考えられる。
またAppleのサービス部門で考えれば、Apple MusicやApp Storeで役立てるという方途もあるだろう。
例えば、あるドローンを操作するためには、組み合わせるアプリが必要で、多くの場合、商品のパッケージやマニュアルの冒頭に、そのアプリのダウンロードを促す説明書きがあり、そこからアプリ名での検索やQRコードでダウンロードページにたどり着いて端末にアプリをインストールするという手順を踏む必要があるが、パッケージや、ドローンそのものにカメラをかざすだけでアプリのダウンロードが可能になったらどうだろうか。製品メーカーは、より円滑にユーザーにアプリを提供できるようになり、アプリと連携する製品も増えていくことになるはずだ。
またユーザーからすれば、より手軽に製品を使い始めることができるようになる。さらに習慣として、何か新しい製品を手に入れたら、とりあえずiPhoneのカメラをかざしてみる、という行動パターンを醸成していく可能性もあるだろう。
AppleがShazamのAR技術をどれだけ評価しているのか、またどのような活用を考えているのかまでは、明らかになっていない。ただ、音楽サービス、検索技術、AR技術と、現在のAppleにとって非常に有用な展開を生んでいくのは、間違いないだろう。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura