業界他社との戦略の類似

一方で興味深いのは、必ずしもEnterprise Ethereumにはこだわっていない点だ。清本氏によれば、KDDIは同種のブロックチェーン技術であるHyperledgerの検証も続けており、実質的に2つの技術に"二股"をかけている状態にある。実は、Enterprise EthereumとHyperledgerの両方にメンバーとして名を連ねる企業は多数存在しており、「両方の技術の成長を見守って、どちらがデファクトスタンダードになっても対応できる」ように"様子見"を行っているようなのだ。過渡期ならではの現象といえるが、それだけに発展途上にある技術ということを証明しているようなものでもある。

ブロックチェーン技術の1つであるHyperledger

将来的には、4000万以上のユーザーとパートナー各社を抱えた状態でも問題なく動作するパフォーマンスが、ブロックチェーンのインフラには求められることになる。これが実現可能になるよう、検証と改良を続けていくのが今後の目標だ。

特にIoTと呼ばれる時代になると、さらに膨大な契約情報や取引情報がネットワーク上を通過していくことになる。既存の中央集権型システムでは遠からず破綻する可能性が指摘されており、いまの段階で技術研究を進め、来たるべき時代に向けてブロックチェーンを基盤として動作させられるようにしておくのは重要なことだ。

実は今回のKDDIの件とは別に、仮想通貨「MUFGコイン」の実証実験を続けている三菱UFJフィナンシャルグループの担当者に、同社のブロックチェーンに対する取り組みについて話を聞く機会があった。

それによれば、電子マネーの代替としての仮想通貨はあくまで一歩にすぎず、将来的にはIoTの展開とともにネットワーク上を膨大な取引データが通過していくことを踏まえ、次世代基盤として開発しているのがブロックチェーンのインフラ、つまり「MUFGコイン」というわけだ。流れる情報も仮想通貨の取引情報だけでなく、さまざまな取引情報や、スマートコントラクトによる契約情報を流すことを想定しているようだ。

現在は独自開発を進めているようだが、ブロックチェーン技術自体はKDDI同様にEnterprise EthereumとHyperledgerの両方にコミットしており、その行方を見守っているという。両者は「携帯修理」と「仮想通貨」というまったく異なるサービスでの実証実験ではあるが、その根本は実は同じことを行っており、目指す方向性や手段もほぼ一致しているという点で興味深い。

取材の終わりに、KDDIに今後実証実験のインフラで実現していきたいことについて聞いてみたところ、「スマートコントラクトとAIの組み合わせ」というコメントがあった。現在、スマートコントラクトにおけるプログラミングは閾値の設定など、割と事前の取り決めに沿った形での条件判断が主眼となっているが、この判断をディープラーニングやAIを組み合わせて、よりインテリジェントにできないかという話だ。

ただ、ブロックの即時共有という性質上、判断部分のパフォーマンスを一定以上に保つ必要があり、これと膨大な計算を必要とするAIとどう組み合わせていくかという課題がある。いろいろな面で目の離せない動きだ。