Enterprise Ethereumを選んだ理由
もう少し技術的、業界のトレンド的な側面から今回の話題を掘り下げる。「なぜブロックチェーンで基幹システムを構築するのか」という点だが、それは前述のように今後の拡張や応用を考えたためだ。
従来であれば、インターネットやVPNなどを介してパートナー同士の基幹システムを結び、アプリケーションを構築してきた。だが、これではアプリケーションを追加するごとにインフラを改修する必要があったり、システム接続のための検証などを行う必要があったため、コストやセキュリティ面での課題があった。
今回、ブロックチェーン上にさまざまな商材を載せる仕組みを構築することで、必要な情報をブロックチェーンに書き込むだけで瞬時に共有が行われ、スマートコントラクトによって自動処理が可能になる。つまり基盤だけ構築しておけば、あとは周辺アプリケーションやスマートコントラクトの実装だけで今後の拡張やパートナーの拡充に柔軟に対処できるようになる。
今回、このあたりについてKDDI総合研究所 情報セキュリティグループ グループリーダーの清本晋作氏と同研究主査の仲野有登氏について説明をうかがっている。
取材時点ではまだ実証実験の初期段階にあり、閉じた環境でパフォーマンスやアクセス制限など問題の洗い出しを行っている最中だという。実際にブロックチェーンのインフラを構築する段階にあたっては、各パートナーにノードを配置して分散台帳を管理する仕組みとするようだ。
すでに検証の段階でいくつか機能的に不足している部分があり、例えばブロックを生成するノードとブロックを承認するノードを一緒にできないといった問題があり、これが仕様なのか、あるいは単に機能の実装が行われていないのかを含め、9月付けで加入したEnterprise Ethereum Allianceにフィードバックを行っているという。将来的にはWebサーバにおけるデファクトスタンダードがApacheに集約されていったように、Enterprise Ethereumをこうしたビジネス用途でのデファクトとすべく機能のブラッシュアップを続けていく意向だ。
なぜEnterprise Ethereumなのかという点だが、「ビジネス用途に必要な機能を備えたブロックチェーン技術」を探していたということで、もともとシステム開発などで付き合いのあったクーガーがEnterprise Ethereum Allianceに加入していたという経緯もあり、ここを窓口にKDDIが同アライアンスとの連携をスタートさせたことに起因する。
前述のように、アライアンス参加企業らの要望を受けてオープンシステムとして開発が進んでいくことで、独自に"フォーク"したブロックチェーン技術を導入するよりも、Enterprise Ethereumのような仕組みを活用するほうがメリットがあると判断したことも大きい。
Enterprise Ethereumには、オリジナルとなったEthereumにはない「情報の秘匿性」「アクセス制限」といった機能が最初から盛り込まれている点も選択のポイントだったという。一般に、ブロックチェーンでは「取引情報が公開されて誰でも閲覧できる」ことで透明性が確保されている部分があり、特徴にもなっている。だがビジネス用途では「誰でも必要な情報にアクセスできる」「一般公開されてはまずい情報がフルオープンになる」という部分が利用のネックとなるため、これを解決した機能を仕様として盛り込んだEnterprise Ethereumの登場ということになる。特にKDDIのケースの場合、個人の契約情報がノード間を移動することになるため、これがシステムを利用するすべての人物に対してアクセス可能になっていると非常にまずいからだ。