現在、池上線および目蒲線の一部(蒲田~多摩川間)を分離した多摩川線は、首都圏としては珍しく、全長18m級で3両編成を組む電車が使用されている。20m級10両編成が走る東横線や田園都市線と比べると差は大きい。要は、ずっと数が変わらない固定的な顧客を運ぶ分には、3両でも問題ないのだ。
ラッシュ時の混雑は激しく、朝のピーク時の五反田到着列車は2~3分ごとに運転され、山手線への乗り換えに便利な五反田寄りの車両は、身動きが取れないほどの乗車率となる。旗の台~五反田間で私が実見した範囲においては、時に積み残しも出していた。
しかし、国土交通省の2016年度の統計を見ると、池上線の朝の最混雑区間(大崎広小路→五反田間)では、1時間あたり3両編成×24本=8,832人の輸送力に対し利用は11,346人。平均すると乗車率128%にとどまる。74,261人を運び、乗車率180%を越す田園都市線と比べると、輸送規模の小ささがわかる。
それゆえ、輸送力増強が喫緊の課題という訳でもない。ラッシュアワーが終わると、渋谷のような商業の集積地も沿線にはないため、電車の乗客は減り、格段に空く。休日も然りである。両端駅と大井町線乗り換えの旗の台での乗降が目立つ程度だ。
こうした実情を鑑みるに、「発展性のなさ」が、池上線最大の課題なのではないかと思われる。少子高齢化が進み、就労人口が減少する時代になると、線路や駅などの鉄道設備を維持する、固定費用の負担が重荷になることが予想されるのだ。仮に、利用客が減り列車の運転本数を減らすことになっても、最低限必要な設備のメンテナンスや更新の費用が、大きく軽減されるわけではない。
沿線の人口減少にどう対応するか
多摩川線の方は、東急蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ通称「蒲蒲線」の建設が実現すると、羽田空港アクセス列車が走る。目蒲線時代は通しで運転をしていた現・東急目黒線とは、設備上は今でも直通運転が可能で、東京メトロ南北線・都営三田線~目黒~東急目黒線~東急多摩川線~蒲蒲線というルートが形成されれば、利用客の大幅な増加が望める。
これに対し、池上線には将来的な延伸や乗り入れの構想は特になく、ほぼ恒久的に今の鉄道設備が維持されることになりそうだ。そうなると、利用客減少を食い止めなければ、収支は厳しくなる。
今後も池上線を運営し続けるからには、沿線人口に頼っていては厳しい。やはりエリア外からの利用客を招き入れる必要がある。人口減少時代に直面し、地域の活性化を図りたい品川区、大田区とも思惑が一致。手始めとして、住民や企業を巻き込んだ「無料乗車イベント」の展開となったのではなかろうか。