FTS戦略の象徴と言えるのが、ハイトワゴンの「カングー」と高性能ブランドの「ルノー・スポール(R.S.)」だ。
カングーに見る独自の立ち位置
カングーにライバルは存在しない。スライドドアを持つ背の高いボディはミニバンを思わせるが、シートは2列で、後方には観音開きのリアゲートでアクセスする広く使いやすい荷室を用意する。ルノーではこのカングーを「ルドスパス(LUDOSPACE、遊びの空間)」という粋な響きで表現している。
カングーはトヨタの上級ミニバン「アルファード」に匹敵する全幅を持ちながら、エンジンは1.2リッターターボであり、価格は200万円台前半と、アルファードよりはるかに小さい「ノア」よりもさらに安い。輸入車は割高という一般的な常識の逆を行く。
それはなぜか。カングーは本国フランスなどでは商用車仕様も存在しているので、もともと高価なクルマではないためもある。でも、これはルノーを含めたフランス車の魅力のひとつとも言えるのだが、カングーは低価格車であっても、伝統の乗り心地や直進安定性はしっかり受け継いでおり、デザインには一切の手抜きがない。
数字で説明するのが難しいフランス車
もうひとつの「ルノー・スポール」は、サーキット走行を前提としたピュアな車種ながら、日本が世界で3番目の売上という人気を誇る。
ルノーは今年でF1参戦40周年というキャリアの持ち主。その経験が歴代ルノー・スポールには反映されている。しかも、フレンチタッチのデザインはスポーティなのにこれみよがしな派手さはなく、むしろエレガントでもある。こうした部分が支持されているようだ。
現行ルノー・スポールはすべて前輪駆動車だが、シャシーのチューニングは標準型のルノーとまるで違う。一言で言えば、後輪駆動車のように自在にコントロールできる。ターボらしいパンチとサウンドを堪能できるエンジンも魅力だ。そのため、三菱「ランサー・エボリューション」やスバル「WRX」など、日本製高性能車からの乗り換えも多く見られるという。
とはいえ、どちらもスペック的に秀でた部分はあまりない。数字で判断する傾向が強いわが国のユーザーには、日本車やドイツ車と比べると、ルノー車はかなり売りにくい。逆に言えば、数字に表れない部分に魅力がある。
これはフランス車を10台以上乗り継いできた筆者も痛感しており、記事を書く際に苦労している。ルノー・ジャポンではその分かりにくさを、「FTS」という分かりやすいメッセージで打破しようと考えた。それが実を結びつつあるのだ。
今年の成長については、前述の2本柱に加わったコンパクトカーの「トゥインゴ」も寄与している。現行トゥインゴはダイムラー・グループのスマートとの共同開発で、現在の自動車では珍しくエンジンを車体後部に搭載した。ルノーは昔からこのメカニズムを数多く採用したことから、リアエンジンによる個性的な走りをアピール。スマートより安い価格と合わせて人気を得ている。