とはいえ、1台のEVを売るために、それだけの手間や投資をなぜ続けられるのか。端的に言って、EVを販売することで、かえって損をしてはいないのか。寺西マネージャーに聞くと、次のような答えが返ってきた。

「そこは、かつてCOOを務めてきた志賀俊之が、『EVは大義である』と常々言っていて、『虚仮の一念岩をも通す』で、その思いを貫こうという空気が今も社内にあります。確かに持ち出しは多いですが、新型リーフの登場は、そのターニングポイントになるだろうと考えています。HVに代われるかの勝負の局面にあるので、投資を続け、EVがブランドとしてお客様に受け入れられるよう働きかけていきます。そして、EVの大衆化を実現し、花を咲かせると信じてやっています」

EVへの取り組みは日産の大義でもある

我慢の先行投資が結実する日は

それでも事業である以上、いつまでも投資を続けるだけでは済まされない。寺西マネージャーは今後の見通しについて、次のように語る。

「10年も先までというのは考えられないでしょう。5年先くらいまでのところで、日産としてEVの存在を自社の個性に定着させるところまで持ってゆけるのではないかと思います。そのためにモーターショーで車種展開を提示していきますし、日産・ルノー・三菱の提携の中で、2022年までに12台のEVを出していくとしています」

「充電器の整備においても、充電網の整備に力を入れていきたいですし、自宅での充電環境を整えることもしていきたいです。世界各地のモーターショーで、各自動車メーカーがEV戦略を発表しているように、EVが事業として成功していけるような環境になりつつあることを、国内の販売店さんにも理解していただけるようにしていかなければなりません」

EVが事業として成立する環境は整いつつある

そしてここへきて、販売が好調の「ノートe-POWER」が、EV販売のきっかけにもなっているという。

「(ノートe-POWERでは)充電せずに、EVのような走りを体験できることによって、EVの凄さを知っていただけるようになりました。そして、一度モーターの走りを経験してしまうと、エンジン車には戻れないといった声も耳にします。販売店でも、お客様にリーフとノートe-POWERの両方を試乗していただき、利用のご事情に合わせた選択をしていただく営業の仕方もしています。ノートe-POWERの誕生が、リーフ販売の後押しにもなっているのです」

どんどん身近になるEV、勢いづく日産のマーケ部隊

低速トルクの太いディーゼルターボエンジンが運転のしやすさを謳うが、EVのモーターはそれ以上に力強く、であるからこそ少しのアクセル操作でも速度にのせていくことができる。軽いペダル操作は、運転のしやすさにつながるのである。そういった部分が、もうエンジン車には戻れないといった声にもつながっているのだろう。なおかつ、排ガスゼロはEVならでは強みだ。

クルマの進化という技術開発と、エンジン車とは違うEV体験の提供というマーケティングの取り組みが両輪となり、いよいよ、EVを身近に感じられる時代が近づきつつあると言えるのではないか。“やっちゃえ NISSAN”から“ぶっちぎれ 技術の日産”へ、EVのマーケティングも勢いづいている。