スマートウォッチに取り組む
とはいえ、自分たちの知識ではスマートウォッチの開発・設計は無理だった。そこで、時計の開発・設計に携わった人に声をかけ、プロトタイプを作り上げた。あとは量産化である。そのためには、メーカーが必要だ。
動いたのが、孫氏だった。孫氏がある企業に声をかけるという。その相手がフォックスコンである。フォックスコンはシャープに資本参画したホンハイを中核とする企業グループである。「行ってみたら、相手も"いいじゃない!"と評価してくれた。これからはこういうデバイスが求められるよね、と乗り気で進めることになったんです」。
その席にいたのが、テリー・ゴウ(郭台銘)氏。テリー氏には会おうと思って会える相手ではない。それを可能にしたのは、孫ファミリーの人脈だ。LEOMOは最終的に、フォックスコン子会社のFIH mobileから出資を受けているが、孫ファミリーの人脈が可能にしたともいえるだろう。
大学時代に孫氏に出会い、彼のつながりをもとに世界の企業家とも出会う。2017年時点でLEOMOを捉えると謎めいているが、約20年におよぶ加地氏と孫氏の親交が今につながっているとういわけである。
孫氏のちゃぶ台返し
話を戻そう。量産化が進むかに見えたスマートウォッチの開発だが、途中でパタッと止まった。きっかけは、孫氏の「これ、売れるかな?」という発言だった。
加地氏は「かっこいいから、売れると思う」と答えた。しかし、「使う?」という孫氏の問いかけには答えられなかった。漠然と売れると考えていたからだ。
そう考えるのも無理はない。スマートウォッチは、ポストスマホとして語られ、多くの人の興味・関心を引いていた。しかし、本命のApple Watchが発売されてからも、ポストスマホの座は得ていない。理由のひとつは、時計ならではの機能がないからだ。
仮にプロジェクトをそのまま進めていも、Apple Watch発売前なら売れたかもしれない。しかし、その先はアップルと同じカテゴリで戦うことになり、苦戦したはずだ。孫氏の発言を「素朴なちゃぶ台返しでした」と加地氏は振り返るが、コンセプトの練り直しはLEOMOにとって幸運なことだった。