ブラウザを採用した理由
その答えは、ひとえに利便性の高さ、リーチのしやすさを目指した結果だという。あるコンテンツを見るためにアプリをインストールするというのは、一般ユーザーにとってモチベーションを下げる大きな要因になるため、ブラウザでそのまま読めることを重視した結果、このような仕様になったわけだ。フォントサイズ変更など不足している機能については、今後改良される可能性もある。
また、雑誌掲載分と同じ内容が無料で公開されるため、むしろ紙離れを招くことになるのではないか、という懸念もある。こうした懸念に対してはどのように考えているのか。「新潮」の矢野優編集長は、「一見すると紙離れのリスクがある。二見すると、リスクを乗り越えた可能性があると思っている」と語った。
また、「雑誌の『新潮』に触れていない人が、『新潮』読者のだいたい10000倍くらいいる。ヤフーさんに配信することで、ものすごい数の人に届けられる」。偶然でも広告クリックでも構わないので、雑誌を手に取ったことのない人たちをターゲットにできるメリットのほうが魅力だという。つまり、これまで届けられなかった読者に作品を届けられることで、新たな読者の開拓、新しい商機の発見につながるチャンスに賭けたというわけだ。
果たして新しい読者を開拓できるのか
紙離れ、活字離れが叫ばれて久しい出版業界、特に純文学界隈にとって、新たな読者層の開拓というのは確かに大きな課題だ。これまでのように単行本が何十万部と売れない以上、作品を新たなかたちで発表・配信していく必要性も高い。そんな中で、日本最大のポータルサイトと、今やPCをはるかに超える数が普及しているスマートフォンという組みあわせを選んだ意義は大きい。量が質に転じる、というわけではないが、やはり母数となる集団が格段に大きな数を持っているというのは大きい。
それでは今回のプロジェクトは、期待通りの結果が得られるのだろうか。実はこのプロジェクトの発表において、数値的な目標は一切発表されていない。正直なところ、未知数すぎて誰も見当がつかない、というのが実情だろう。このため「期待」がどの程度の成功を目安にするべきなのかも難しいところなのだが、筆者としては「面白い試みだが、なかなか難しい」というのが正直な感想だ。