オールラウンド性とサウンドも支持拡大の要因

もうひとつの違いはオールラウンド性だ。Mは1990年代になるまでマニュアルトランスミッション(MT)のみだったのに対し、AMGは当初からオートマティックトランスミッション(AT)を中心としていた。

いまや日本市場ではメルセデスもBMWもATがメインだが、昔は安全快適な実用車のメルセデスに対しBMWはスポーツセダンと、色分けがはっきりしていた。その違いが高性能ブランドにも反映していたと言える。おかげでAMGは、早くからイージードライブを取り入れることで、より幅広い層を取り込むことに成功していたのだ。

イージードライブへの対応が幅広い層の獲得につながった(画像は「E 63 4MATIC+ ステーションワゴン」)

エンジン音や排気音についても同じことが言える。かつてのMはBMWのアイデンティティでもあった直列6気筒を積む車種が多く、滑らかで緻密なサウンドが魅力だった。一方のAMGは、アメリカ車にも多く積まれてきた大排気量V型8気筒搭載車が多く、迫力のある重低音でアピールした。

クルマ好きはMのサウンドを心地良いと評価する人が多い。筆者もその1人で、高性能車にとって音は大切だから、どちらか選べと言われたらMを取る。でも、その他大勢の人にとってはAMGの問答無用の迫力のほうが分かりやすかった。これも支持拡大に役立ったのではないかと思っている。

AMG東京世田谷には、日本では6月に発表となった「メルセデス AMG GT R」も展示されており、その強烈なエンジン音も聞くことができた

民主化の道をたどったAMGにも一理あり

入りやすさと分かりやすさ。これはマーケティングでは重要だ。例えばスポーツカーの世界では、同じドイツのポルシェ「911」が根強い支持を受けているけれど、それは技術やデザインそのものが評価されているだけでなく、スポーツカーとしては車高が高めで室内が広いことによる使いやすさと、多くのクルマが諦めたリアエンジンという方式を堅持していることが効いているのだ。

もうひとつ、AMGの成長にはバリエーションも関係している。BMWのMが3リッター6気筒以上のエンジンを縦置きした車種に限っているのに対し、AMGは2リッター直列4気筒エンジンを横置きしたAクラスにも設定している。それが最初に紹介した46車種という数字につながっている。一方のMは10車種に満たない。

たしかにMの思想のほうがピュアであり、AMGの民主化を残念がる声もある。でもその結果、知名度がアップし、販売台数を稼いでいるのだから、これもひとつの正義だろう。