日本三天神で最も歴史が深い「防府天満宮」

旅の最後に訪れたのは、柳井市から西に50kmほど車で走った場所にある「防府市」。"二千年の歴史が息づく防府"と謳われる同市には、歴史ロマンが詰まった史跡が数多く点在している。中でも外せないのが、京都の北野・福岡の大宰府とともに日本三天神のひとつに数えられる「防府天満宮」だ。

「防府天満宮」の鳥居

社殿へと続く石畳の参道

受験生にお馴染みの"学問の神様"こと菅原道真公を祀る神社だが、この防府天満宮は三天神の中でも最も古い歴史を誇る。道真公が亡くなった翌年の904(延喜4)年に、時の周防国司であった土師氏が社を建立したのが始まりと言われている。

さまざまな奉納行事が行われる「春風楼」では、防府の街並みが一望できる

古くから人々に親しまれてきたこともあり、境内には数多くの文化財がそろっている。歴史館という展示施設には、国の重要文化財9点、県・市の指定文化財8点など約500もの宝物が収蔵されているほか、朱色の重厚な本殿・幣殿・拝殿、さまざまな神事が行われる舞台「春風楼」も国の登録有形文化財。境内を巡れば、悠久の歴史を肌にひしひしと感じることができる。

石段の参道をのぼった先に見える朱色の「楼門」

神聖な雰囲気が漂う、入母屋造りの「幣殿」

また、歴史ファンなら見逃せないのが、境内へと続く大石段の左手にある「大専坊」。もともと防府天満宮には9つの社坊があり、それらを取りまとめていたのがこの大専坊だ、1557(弘治3)年に毛利元就が大内義長を打った時の参謀本部であり、また幕末には長州諸隊の遊撃隊の本部としても利用されていたという。

伊藤博文や高杉晋作など、名だたる維新志士たちが足跡を残す「大専坊」

名だたある志士たちが密会をしていた建造物や、趣深い庭園なども当時のままの姿で残されている。ひっそりと静まり返った境内では、耳を澄ませば今も志士たちの声や息づかいが聞こえてきそう。「ここで歴史が動いたんだ」と思うと、身が引き締まる。

選ばれた職人のみが提供できる「天神鱧」

日本屈指の鱧の漁獲量を誇る防府では、この天満宮にちなんで命名された"天神鱧"と呼ばれる名物料理が味わえる。この天神鱧が味わえるのは、地元の「はも塾」で技術を磨いた職人が腕を振るう料理店のみ。職人技が生かされた新鮮な鱧料理を賞味できるとあって、遠方からわざわざ訪れる客も多いという。

今回、足を運んだのはもともと製氷店を営んでいたという主人が腕を振るう「ふぐ処 佐じか」。昔の名残りという外壁に書かれた大きな「氷」の文字が目印だ。

腕利きの職人による料理が味わえる「ふぐ処 佐じか」

かつて製氷店を営んでいた名残りで、壁には「氷」の文字が

名物の鱧料理はフルコースが税別5,000円~、単品は税別1,000円~そろう(※提供期間は8月~9月中旬頃)。今回はフルコースで、刺身や押寿司、落とし、揚げ物、握りなど多彩な料理で名物の天神鱧を堪能。淡白ながらも旨味が詰まった上品な味わいからは、地元ならではの鮮度の高さと職人技が窺い知れる。

鱧尽くしの贅沢なフルコースは税別5,000円~

中でもぜひ注文したいのが、鱧しゃぶ。鱧しゃぶ自体はそれほど珍しいものではないが、この防府では特有の食べ方があり、それがおもしろい。

新鮮な鱧を使用したしゃぶしゃぶは地元の名物

まず、そばあげに菊菜、鱧の切り身の順に載せ、鍋のダシに浸すと、鱧の身が菊菜を巻き込みながらくるりと丸くなるのだ。ちょうどひと口サイズにまとまって食べやすいほか、このくるりと丸まる様子が見ていてなんとも興味深い。鱧を食べ終わった後は、締めの雑炊。もちろん、味はお墨付きである。

そばあげに菊菜をのせる

菊菜の上に鱧をのせる

鍋でしゃぶしゃぶすると……

鱧がくるりとまん丸に!

山口に来られて"幸せます"

今回は山口県の3つの市を巡ったが、どの町でも文化や伝統が今なお脈々と受け継がれていることが印象的であった。古くからの製法を守る甘露醤油、今昔の感性が取り入れられた柳井の工芸品、職人同士が寄り合って技術の発展を目指す鱧料理の料理人たち……いずれも、今と昔を繋ごうと切磋琢磨する地元の人々の想いが詰まっている。

防府のとある通りをカメラ片手に歩いていると、道行く人に「遠くから山口に来てくださったんですね、"幸せます"」と声をかけられた。とっさのことで、会釈しかできなかったのが、次に来たときは「こちらこそ、山口県に来られて"幸せます"」と伝えたい。