柳井の名産品「金魚ちょうちん」

今度は岩国から南西へ車を走らせ、今なお江戸時代の商家の家並みが残っているという「柳井市」へ向かった。美しい白壁、重厚な瓦屋根、格子窓……それらを眺めていると、まるで江戸時代にタイムスリップしたような気分に。

白壁の歴史ある家屋が立ち並ぶ

軒先に吊るされ、ゆらゆらと揺れているのは、柳井の民芸品「金魚ちょうちん」。青森の「ねぶた」をモチーフにつくられたと伝えられており、例年夏のシーズンには数千ものちょうちんが町全体を彩る(※今年は来年の平成30年1月3日まで)。

軒先で風に揺られる「金魚ちょうちん」

この金魚たちは最近、東京のモダンなホテルやショッピング施設にも飾り付けられるなど、全国的に注目を集めている。初めて間近で見たのだが……「か、かわいい!」。クリッとした目とまん丸の身体が実にキュート。これは人気が出るのも頷ける。

朱色以外にも、黄色や青色も見られる

「やない西蔵」では、金魚ちょうちんづくりも体験できる

また、通りには民家もあれば、"髪結処"こと理美容室、文房具店、雑貨店なども軒を連ねている。いずれも趣ある街のムードを崩さないように、ノスタルジックな佇まいに統一されており、歩けば旅情感がくすぐられる。

ノスタルジックな雰囲気の理髪店

そのうちの一軒、文房具店「木阪賞文堂」に入ってみたのだが、このお店にかなり長居してしまった。その理由は、実にハイセンスな文具や雑貨がそろっているから。都内でもなかなか見かけないような国内外の上質な文具がそろうほか、「金魚ちょうちん」をモチーフにした商品も大充実していた。

文房具店「木阪賞文堂」

看板もかわいい

クリアファイルやノート、ペン……すべてオリジナル商品とのことだが、デザインがとても秀逸。取材スタッフ全員が、思わず大人買いしてしまった。

豊富な金魚ちょうちんグッズ

どれもオリジナルデザインでかわいらしい

通りから一本路地に入ったところで、年季の入った一枚板に"甘露醤油"と書かれた看板を発見。ここは、柳井市の特産品である甘露醤油をつくっている醤油蔵元であり、一部を「甘露醤油資料館」として公開している。

重厚な建築の「甘露醤油資料館」

この甘露醤油は独自の再仕込みという製法でつくられたもの。岩国寿司同様にかつて岩国藩主・吉川公に献上した際、その芳醇な味と香りに「甘露、甘露」と歓声をあげたことからその名がつけられたと言われている。建物の中に入ってみると、濃厚な醤油のいい香りが鼻孔をくすぐる。仕込み用の大きな樽が見られたり、甘露醤油の多彩な商品も購入することができる。

醤油を仕込む巨大な樽の見学や、ここでつくられた甘露醤油の購入もできる

柳井名産の甘露醤油

また、蔵の入口では醤油づくりに使われる天然水がかけ流しされており、誰でも自由に飲んだり、ボトルに入れて持ち帰ったりできるのだが、この水は訪れた際にぜひ飲んでほしい。今まで「この水、すごくおいしい!」なんて思ったことも言ったことも一度もなかったのだが、この水を飲んで思わず連呼してしまった。ものすごく、うまいのである。滑らかな口当たり、少しばかり甘さを感じるような澄んだ味。個人的に、今まで飲んだ水の中でナンバーワンの美味な水だった。

地元の人たちも、ペットボトルを持参してひっきりなしに水を汲みに訪れていた

金魚ちょうちんをモチーフにした多彩な商品展開、ノスタルジックながらモダンな街並み。これらを見ていて、きっと"若い人たちの柔軟な発想が街づくりに反映されているんだろうな"と思い、市役所の観光担当の方に聞いてみると、なんと「それは違います」と言う。「今も街で活躍されているのは40代以降の方が中心なんです。町が面白いのは、きっともともと商人の町で、その心が現在も受け継がれているからだと思います」とのことだった。