家電の開発現場でも、エスキュービズムならではの考え方を取り入れている。薮崎氏が例え話として持ち出したのはアパレル業界だ。
「商品開発において、売上は商品個数×単価でしか売上は上がらない。商品の数やカテゴリごとにマーケットサイズはおおよそ決まっているので、そこにリソースを投下する時、開発期間はおおよそ固定化され3年程度かかってしまう。でも、ZARAやH&Mは、いわゆるファストファッションでその商慣習を変えましたよね? 私たちは、ITでいわゆる"リーン開発"をやって、開発サイクルを早めてきました。家電メーカーはその考えがまだまだ浸透していないので、そこでトレンドの取り入れや、開発コストの低廉化を進めています」(薮崎氏)
ただしリーン開発では、ある意味「ベータ版」のような形でソフトウェアを公開し、バグフィクスや機能改善を行うケースがある。しかし、家電製品では最終消費者の手元に届けば、基本的に替えが効かない。それでも薮崎氏は、消費者に製品を届けることが大切だと話す。
それは、大手家電メーカーが1万個に1個という不良品発生率を目指すのに対し、エスキュービズムは1万個に10個といった「桁は変わるかもしれないけど、不良品に遭う確率は低い状態」を目指すことが、最終的に消費者にメリットをもたらすという理由だ。
「1万個作って0個の不良品を目指すと、コストが倍かかります。その倍が価格に跳ね返り、結果として価格競争力を失ってしまったのが家電メーカーの姿なんです。もちろん、私たちも不良品を出すことが良しとは考えていない。製造段階で不良品が出てしまうのであれば、ほかのプロセスでカバーする。それが私の考え方。検品作業や輸送など、最適化を進めれば、そうした不良品がお客さまのところに行き着く可能性は低いし、それで価格が抑えられるのであればお客さまのメリットでもあると思います」(薮崎氏)
VRでEコマース?
現在、IT事業ではVRを活用したECパッケージ「EC-Orange VR」を発表し、実店舗の環境をVRで再現しつつ、そのまま商品の購入へと繋げる未来を描いている。
「実店舗での"お買い物"は半日がかりの大変なこと。でもみんな、ネットの"棚"が増えたのに、実際に商品を触りに行くわけです。その買い物の不便さを出来るだけ低減したい。お店での価値を再定義する必要があると思いますが、VRでそれを実現できるんじゃないか、そんな期待があるんです」(薮崎氏)
スマートフォン、そしてタブレットでもWebは簡単に見られるが、人間の目にとっては「情報処理能力がとても高いから、ディスプレイサイズが小さすぎてもったいない」(薮崎氏)。だからこそ、今でも新聞の価値はその紙面いっぱいの一覧性にあると言われている。それを有効活用できるのが、スマホ画面を最大限に使い切れるVRであり、その処理能力を店舗の再現で活かそうというものだ。
「必ずしも今始めたVRショッピングの形が正解ではないと思いますし、形は変わっていくと思います。でも確実に言えるのは"今より便利になる"ということ。もちろん、VRは未知数という声もあります。しかし、イノベーションの話ではないですが、"少し先"を意識して手を打てば、確実に顧客はついてくると思います。7月の発表から、実際に小売店さんからの引き合いもいただいています」(薮崎氏)