ここのところ取材でよく聞くのが「IoTをやれと言われて、とりあえずIoTに類する何か」をやろうとする企業が多いという話。こうしたPoCキットは、その取っ掛かりとして"とりあえず"にちょうど良いものかもしれないが、それなりのコストがかかるため、「やって終わり」では済まされない。
「日本企業はとにかく事例を求める」とは、あるクラウドベンダーの取材中に言われた言葉だが、確かに類似事例がないことには上司への説得にもならないのだろう。そうした事例作りという裏の狙いもあるのだろうか、KDDIは8月10日から9月までLoRa PoCキットを活用して、御殿場市と共同で富士山の御殿場口における登下山者数の"見える化"を始めた。
赤外線と超音波で通行人を把握
これまでは人力で、御殿場市職員などがカウンターを持って通行者の人数を確認し、多大な労力を割いていた。もちろん、開山期間中すべての人数把握などできるはずもなく、人件費などを考慮すればキットによる自動化の仕組みは願ったり叶ったりだろう。
見える化の仕組みは、赤外線センサーと超音波センサーを組み合わせて人の移動を検知する。赤外線センサーで人の移動を検知したあと、超音波センサーが3方向に超音波を発し、人の移動方向を感知する。これによって、登山しているのか、下山しているのか判断する。
登下山の方向を判断する理由は、登下山道であっても途中で引き返すケースや、御殿場口付近にはハイキングコースが設置されている実態の把握。KDDIが「富士山登山状況見える化プロジェクト」というサイトを公開しており、実際の数字を確認できる。
データの送信頻度は30分に1回で、通過時刻などのタイムスタンプは保持せず、30分間にどちらの方向に通過したかの人数データをそのまま数字で送信する。今回は御殿場口付近の5箇所、数百メートル圏にデバイスを設置したが、KDDIの調査によれば5km以上離れた富士山頂の剣ヶ峰でも電波を確認できたという。これこそがWi-FiやBluetoothでは実現できないLPWAの強みだ。
唯一の課題はバッテリーだろうか。2万6800mAhの大容量モバイルバッテリーをセンサーデバイスに備え付けているが、(余裕を持って)2週間に1回はバッテリーの交換が必要だという。担当者の話によれば、30分に1回だけデータを送信するLoRaWANモジュールよりも、赤外線センサーと超音波センサーの電力消費が大きいようだ。
開山期間が2カ月程度の富士山であれば交換する負荷はあまりかからないとみられるが、より定常的にセンサーを利用するケースでは、有線による電力の確保や太陽光パネルの設置といった対策が必要になりそうだ。