非常に力強い成長を続けるAppleのApp Storeビジネス。iPhoneとiOSの進化によって、新しいアプリも、より魅力的なものになっていくことだろう。そしてアプリとともに、App Storeの規模を格段に大きくする可能性を秘める分野が、米国市場には存在する。
それは、テレビだ。有料チャンネルの契約数は米国で1億世帯に近く、その20%以上をケーブルネットワークのコムキャストが握っている。市場規模も2015年に1,085億ドルだった。現在はその計画に関する噂は沈静化しているが、一時期、Apple自身もテレビデバイスの開発や、独自の番組制作や配信について検討しているといわれていた。ともなれば、AppleがApp Store成長の過程で、この1,000億ドルの有料チャンネル市場を狙うことは不思議ではない。また番組の視聴スタイルの変化も手伝って、有利にビジネスを展開する状況が整いつつある。
インターネットでの映像体験の先駆となったYouTubeは、米国のいくつかの都市圏向けに「YouTube TV」のサービスを開始した。このサービスは、ケーブルテレビに契約しなくても、スマートフォンやタブレットで、テレビ番組のライブ放送を観たり、録画番組を観たりすることができる仕組みだ。月額35ドルを支払えば、場所や時間帯に関係なく、いつでも好きな番組や生放送が楽しめる。
AT&T参加のDirecTVは、「DirecTV NOW」というアプリを提供しており、こちらもライブ放送などをアプリを通じてモバイルデバイスで楽しめる仕組みだ。テレビ番組や生中継を、スマホで観るスタイルが急速に整備されているのが現状だ。
そうした中、ディズニーが、ネット映像配信サービスNetflixとの契約を打ち切り、独自の映像配信サービスを立ち上げるとのアナウンスを行った。ピクサー、マーベル、スターウォーズなどのキラーコンテンツを多数参加に収める同社の独自映像配信サービスの発表は、ネット映像配信だけでなく、ケーブルテレビ業界にも衝撃が走った。
大きな流れを見ると、前述の1,000億ドルの市場は、テレビからモバイルデバイスへ、プラットホームから独自配信へ、という流れを加速させる、と考えられる。
ディズニーを失うNetflixがすべきことは、これまでの施策と同じく、コンテンツを充実させていくことである。魅力的なコンテンツプロバイダーと契約したり、独自に制作して差別化をしていくことで顧客を引き留めたり、新規顧客を獲得したりする競争から降りるわけにはいかない。
そう考えると、これまで「プラットホーム」との見方が強かったNetflixは、他のテレビ局と同様に、「1つのチャンネル」へと変化していくことになる、と思われる。「プラットホーム」としての存在は、他のレイヤーが担うことになるであろう。Appleが狙っているのは、まさに新しい時代のテレビ視聴の「プラットホーム」としての役割、そのものなのだ。