市場のニーズに応えたアップル

第5世代iPadの投入によるビジネスメリットは、低価格化し十分高性能なタブレットを用意し、教育機関や企業などへ、まとまった台数の導入のハードルを下げた点であると指摘できる。同時に、2017年3月には、iPadのラインアップの整理も実施している。

第5世代iPadを投入する代わりに、iPad Air 2と、128GBモデル以外のiPad mini 4を廃止し、ラインアップを非常にシンプルにしたことが、販売台数上昇にとって大きく貢献したと考えられる。

これまで、iPad Proシリーズ2機種、iPad Air 2、iPad mini 4、iPad mini 2と、非常に多くのラインアップを揃えていたが、そのためニーズが高かった9.7インチのiPad Air 2の生産が追いつかず、2017年に入ってからは納期が10週になるなど、品薄状態が続いていた。そこでラインアップを整理し、ニーズが高い9.7インチのiPadの生産体制を整えたことで、需要に応えられるようになった。

iPadは教育機関や企業で人気のあるタブレットだ。デバイス自体の価格で比較すると、ChromebookやWindowsタブレットの方がまだ価格が安いモデルも存在している。しかし、iPadはデバイスの壊れにくさやメンテナンスコストの低さ、ワープロや表計算などのアプリが無料で利用でき、OSのアップデートも無償化されているという、ソフトウェア面での追加コストの低さ、そしてトレーニングコストの低さを加味した、トータルのランニングコストでは分があり、選ばれる理由となっている。

こうした大量導入では人気がある9.7インチiPadを、きちんと台数が揃えられる体制を築いたことが、iPadの販売台数浮上にとって大きな要因となった、と考えられる。言い換えれば、機会損失を防いで、iPadの下落トレンドを食い止めた、というわけだ。

次のiPadの変革とは?

低価格のiPadによって販売台数の上昇へこぎ着けたアップルだが、これで「iPadが復活した」と結論づけるのは尚早だ。

アップルは2016年3月にiPad Pro 9.7インチモデルを投入する際、このモデルの役割は「5年以上古くなったPCのリプレイス需要」を狙うことだとした。特に、9.7インチから10.5インチにサイズを拡大させたiPad Proの役割は、日常やビジネスなどの一般的なコンピューティング全般を、iPad Proが担う世界へと移行することだ。

その武器としてWWDC 2017で披露したのが、今秋に公開予定のiOS 11だ。「iPad向けiOS最大のリリース」とうたう新しいソフトウェアには、PCやMacに対してiPadにかけていた、「一般的なコンピューティング」を担うための補強と、より新しいユーザー体験が盛りこまれていた。