強みをいかし、巨大市場を開拓
一見、まとまりのない感じのする多角化の動きだが、瀬戸社長の事業拡大に関する考え方は明快だ。まず、ライザップでは生活必需品のビジネスに手を出さず、事業領域を「自己投資産業」に絞る。そして、強みである「やりきらせる力」をいかし、巨大な「三日坊主市場」を開拓する。大事なのは、結果には必ず「コミット」することだ。
「戦後の日本では、人は『今日を生きられるだけで幸せ』で、自分が他人からどう見られているかを気にする余裕もありませんでした。しかし、食べられるようになる(ある程度の生活必需品がそろう)と、1年後の自分を考えるようになり、人目を気にする余裕も生まれます。時代が変わるとモノの目的も変わり、例えば服なら、昔は長持ちすることが大事だったかもしれませんが、今は、それを着て人からどう見られるか、自分の価値が高まるかどうか、ということが重要になっています」
これが、自己投資産業にフォーカスする瀬戸社長の考え方だ。ダイエット、ゴルフ、英会話など、ライザップが展開する事業は全て、生きるために必須なモノ・サービスではなく、自己投資産業に分類されるべきものだ。そして、全てが三日坊主で終わる可能性がある、というよりも、その可能性が高いものと言って差し支えないだろう。
「ダイエットが失敗する原因は、やり方ではなく三日坊主です。痩せる方法について情報は溢れていますが、痩せたいと望む全ての人がダイエットに成功していないところを見ると、コモディティ化した情報がソリューションにならないのは証明済みです」。瀬戸社長の考えでは、「世の中は努力と比例することだらけなのに、努力をサポートするサービスはほとんどない」というのが現状。1人ではなかなか続けられない自己投資を、寄り添って「やりきらせる力」がライザップの強みだ。
これはジムで蓄積したノウハウであり、当然ながらゴルフや英会話などにも活用している。ジムを例に取れば、痩せるための特別なトレーニング法がライザップの売りなのではなく、顧客に“やりきらせる”ことで、手段ではなく結果にコミットするのが同社のビジネスだと言える。
手段ではなく結果にコミット
結果を重視するライザップだけに、ある目的を達するため、より効果的な手段が見つかれば、既存の手段に固執することはないという。例えばライザップは、ファミリーマートと組んで「低糖質商品」を展開しているが、健康という目的を達する低糖質という手段については、その効果を東京大学と協力して研究を進めている。手段が誤っていたり、効果的でないと判明したりすれば、ライザップは手段を改めることを躊躇しないと瀬戸社長は断言していた。
時代と共に変化する消費の質に対応し、自己投資産業に商機を見出したのがライザップだと言える。ジムは1番人気の2カ月コースで入会金5万円+料金29万8000円、ゴルフは2カ月のトライアルプランで29万8000円(全て税抜き)と価格設定は強気だが、時計、バッグ、クルマなど、他の自己投資の手段(自分の価値を高めるための支出)がライバルと語る瀬戸社長の言葉を聞いて、ある程度は納得できる部分があった。