音づくりから感じた日産の配慮
もう1つ、エクストレイルで気づかされたのは、運転者のハンドル操作がおろそかになったとクルマが判断した際の警告の出し方である。
まず、メーター内のインジケータに警告が示される。それに気づかないでいると警告音が鳴る。これが電話の呼び出し音のような音色で、しかも音量はそれほど大きくはない。音量が小さいと聞き逃す恐れがあるが、その音を、電話の呼び出し音のようにすることで、人はその音に気付きやすくなるのではないか。
現代人は、日常生活の中で電話への応答には敏感になっている。「ピピピッ」とか「ビー」というような別の警告音であれば、鬱陶しく思ったり、同乗者も不安になったり、音量が大きくないと聞き逃したりしそうだ。しかし、電話の呼び出し音に似た音色であれば、誰もが気付きやすく、なおかつ強い警告音より嫌悪感は少ないのではないだろうか。
今後、自動運転へ向かって開発が進むにつれて、万が一の状況に対し、クルマが運転者や同乗者へ警告を発する場面が増えてくるかもしれない。その際に、確実に認識され、なおかつ鬱陶しく感じたり強く不安を与えすぎたりしない表現方法が必要になってくるだろう。一般的に、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)といわれる分野だ。
自動化・電動化の時代に重要となる差別化ポイントとは
EVやHVが低速走行する際、エンジン音がしないので危険だとの指摘を受け、国土交通省は低速走行中の音出しを指導した。それに対し日産は、様々な音を研究し、人工的に音を合成し、耳に心地よく、かつEVらしく、それでいて確実にクルマが走っていることを知らせる音作りをしてきた。それを搭載したリーフの擬音は、他社に比べいい音色だと思う。
次世代のクルマには、そうした人とクルマとの関係を取り持つ新たな表現方法がますます必要になってくると思われる。
EVや自動運転はクルマをコモディティ化するので、メーカー側は商品性を示せなくなったり、クルマがつまらなくなったりするのではないかと懸念する声を耳にする。だが、プロパイロットの仕上がり具合や、リーフの疑似走行音など、メーカーごとの違いを明らかにする手法は、その企業の商品性の与え方や、目指すべき商品の姿が明確であるかに関わってくる。
コモディティ化どころか、差別化がますます不可欠であり、そこが存亡を分けることになるのではないだろうか。