お得感を打ち出した顧客還元でユーザー流出を阻止
NTTドコモがこれだけ大きな割引施策を次々と打ち出しているのには、総務省がNTTドコモだけでなく大手3キャリアに対し、"お客様還元"を求めていることが挙げられるだろう。
従来大手キャリアは、あくまで新規顧客の獲得を目的として、端末をいかに安くするかに値引きの重点を置いてきたが、一方で収入の要となる毎月の通信料を下げることには否定的な対応を取り続けてきた。
だが携帯電話料金の引き下げを検討するべく、一昨年に実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」など総務省の有識者会議では、そうしたキャリアの端末値引き施策が、端末を頻繁に買い替える人だけが優遇されるなどの不公平感を生むという指摘が多くなされていた。
そこで有識者会議ではキャリアの端末値引きを大幅に抑制し、値引きを減らしたことで浮いた利益を通信料の値下げなど、既存顧客への還元に回すべきという意見がまとめられていった。
そうした総務省の意向はガイドラインによる端末の実質0円販売の事実上禁止などによって実際に反映され、大手キャリアは顧客還元をやらざるを得ない状況となっているのである。NTTドコモも昨年度は300億円規模、今年はさらに額を増やして数百億円規模の顧客還元を実施するとしており、シンプルプランやdocomo withも、そうした顧客還元の一環となるようだ。
だが単純に通信料を下げてしまうと、当然のことながら業績に大きな影響を与えることとなる。それゆえいずれのサービスも、収益に与える影響を可能な限り軽微なものにしつつ、ユーザーにお得感を打ち出す工夫をしていることが分かる。実際、シンプルプランは家族契約のユーザーのみに対象を限定し、なおかつ通話定額の相手も家族内に絞っている。またdocomo withも、端末の値引きをせず、対象機種もミドルクラスに絞ることでユーザーを限定しようとしていることが分かる。
そしてもう1つ、最近では大手キャリアから、MVNOや他社のサブブランドなど、より安価なサービスへとユーザーが流出する傾向にあることから、顧客還元は大手キャリアにとって市場競争を勝ち抜くための重要なテーマにもなってきている。なぜなら安価なサービスにユーザーが流出するよりも、多少利益を減らしてでもユーザーにお得さを打ち出すサービスを提供し、自社内にユーザーをとどめておいた方が、競争上有利となる可能性が高まっているからだ。
特に最大手のNTTドコモは、顧客を流出させない"守り"こそが最大の攻めとなるだけに、今後も顧客還元を積極的に展開してくると考えられそうだ。それによってNTTドコモ、ひいては大手キャリアの料金が下がってくれば、格安なサービスが有利となっている現在の市況にも、変化が見られるようになるかもしれない。