長年に渡り、プレイステーション事業を担当してきた平井社長が、テレビ事業に関わったのは、副社長時代の2011年4月に、コンシューマエレクトロニクス事業全般を担当したときからだ。この年、ソニーは、テレビ事業だけで1480億円の営業損失を計上。テレビ事業の赤字幅は過去最大となっていたタイミングだった。平井氏は、すぐに収益改善プランの策定に取り掛かり、2011年11月には、大きな戦略転換を発表した。

それまでのテレビ事業の基本的な姿勢は、量の拡大によって、コストをカバーし、赤字から脱却するというものだった。だが、平井氏が打ち出したのが、事業規模が半分以下でも損益を均衡させられる体制へと事業構造を変革するという、まさに180度異なった方針だった。実際、一時は、年間2700万台にまで引き上げた液晶テレビの販売計画は、2016年度実績で1210万台にまで縮小している。

「社内外から、その戦略で、果たして本当にテレビ事業の損益が改善するのかといったように、疑問視する声が多かった」と、平井社長は当時を振り返る。

ターゲットを絞り、規模を追わない

平井氏が取ったテレビ事業の基本戦略は、ターゲットとする顧客層を絞り込み、販売台数は、それに合わせた規模に縮小。それに応じて、販売会社の費用を含めた固定費を大幅に削減することでの再生だった。

また、テレビのなかで最も大きなコストを占める液晶パネルは、生産会社への出資を解消し、複数の企業からの機動的な調達を図る体制に転換した。具体的には、韓国サムスンと合弁で設立した液晶パネル生産のS-LCDを解消。また、スタートしたばかりだったシャープが大阪府堺市に建設する液晶パネル生産のシャープディスプレイプロダクトとの合弁も解消した。

まさに、規模を追わずに、業績回復につなげてみせたのだ。

高付加価値商品で違いを追う

規模を追わない一方で、ソニーがこだわったのは、「違いを追う」という点であった。

「ソニーは、音と映像にとことんこだわり、徹底的な商品の作り込みを行ってきた。4Kを中心とした大型画面の高付加価値商品に注力しており、ソニーの高画質技術の詰まったプロセッサーを組み合わせることで、有機ELテレビ、液晶テレビともに、他社の商品を凌駕する映像を再現していると自負している」とする。

実際、ソニーは、6月10日から国内で発売する4K有機ELテレビ「ブラビアA1シリーズ」に、同社独自の4K高画質プロセッサー「X1 Extreme」を搭載。さらに、画面自体を振動させて音を出力する「アコースティックサーフェス」を採用し、画面周辺に配置されるスピーカー部をなくしたこしとで、正面からはスピーカーやスタンドが見えず、まるで映像だけが浮かんでいるような佇まいを実現している。ソニーならではの違いを追った商品だ。

また、液晶テレビ「BRAVIA Z9Dシリーズ」は、100型のフラッグシップモデルが700万円(税別)という価格設定が話題を集めたが、これも音と映像に対するソニーのこだわりを表現するものだといえるだろう。