日本市場について語る若松社長

「500万台の中身を見ると軽自動車があり、販売価格が300万円以下のクルマが多い。その中でハイブリッド車や5ナンバーミニバンが気になり、日本市場のコモディティ化(差別化が困難な一般化)が心配になりました。それから、クルマを持たず、たまにレンタカーを借りればいいというクルマ離れも気掛かりでした」

「そうした全体像に対し、ラグジュアリー車は25万台くらいの販売で、少しずつですが伸びています。また帰国してから、正規ディーラーネットワーク(特約契約を結ぶ販売業者)や、ACデルコ(ACDelco、自動車部品ブランド)の取扱店を回り、あるいは週末のクルマイベントを訪ねてみると、日本の自動車社会が成熟している様子に気づかされたのです」

「GMインターナショナルでの仕事は、発展途上の市場で販売台数を伸ばすことでしたが、成熟した日本では、コア層(中核となる顧客)にもっと接触し、GMが強みとしている商品を選び、届けたいと考えるようになりました。同時に、ご購入いただいたあとのサービスの質をもっと高めていきたい」

若松社長はこう分析し、日本における戦略を打ち立て、収益を上げて成長することができると判断し、市場に残る意味を見出した。

商品戦略を明確に

まず、明確な商品戦略である。若松社長も述べているように、成熟した自動車社会の日本市場には、強みを備えたラグジュアリーなクルマで勝負する余地が残されているということだ。

日本市場にはラグジュアリーなクルマが勝負する余地が残されている(画像はキャデラック「エスカレード」。以下、画像提供はGMジャパン)

振り返ればフォードには、このように日本市場を検証し、練られた商品展開が欠落していた。米国的なスポーティクーペの「マスタング」があり、大型SUVの「エクスプローラー」があり、同時に欧州から小型の「フォーカス」や「フィエスタ」といった大衆的な車種を導入するなど、米国と欧州という自動車文化の区別なしに、単一のフォードの名で販売してきた。若松社長の言うような強み、あるいは、あえて選ぶべき魅力が、フォードのどこにあるかが見えにくかった。

なおかつ、欧米の交通事情と異なり、道路に必ずしも名前がなく、道案内の表示板も統一性に欠ける日本の交通事情に不可欠なカーナビゲーションへの対応も、フォードは大幅に遅れていた。クルマの良し悪しや好き嫌い以前に、選択肢から外れる装備内容であった。