ところが、これが変わっていく。事業開始からしばらくして、通信と絡めた生産体制の構築が経営幹部から求められるようになった。出来上がったのが、遠隔監視システムだ。これは工場内の温度、湿度、水温、二酸化炭素の濃度をセンサーで計測し、異常を検知すると、指定のアドレスにメールを送信する仕組みだ。

植物工場場内の様子

ありがちなトラブルが、二酸化炭素濃度の低下。レタスの育成には光合成が必要で、レタスの葉に二酸化炭素をかけることで、生育が早まるが、ボンベ内の二酸化炭素が切れてしまうと生産効率が落ちてしまう。工場は土日休業となっており、金曜の夜に二酸化炭素のボンベが切れると、月曜に出社した際に、レタスの育成スピードが通常よりも顕著に落ちているという。こうしたミスを防ぎ、異常を知らせることで、休日でも対処できるのだ。

2013年10月から始まった事業は、今や2工場体制となり、レタスの栽培は日産900株、重量にして60kgほどとなった。生産したレタスは、小売のリウボウストアとハンバーガーチェーンのA&Wに年間契約で販売している。いまや、県内では最大規模の生産者になっているとのことだ。

偶然が広がりを持たせる

植物工場事業で培った技術は、家庭用水耕栽培キット「やさい物語」、マンゴー栽培の実証実験にもつながっていく。面白いのは"偶然"によって結びついたことだ。

水耕栽培キットの製品化は、もともとミッションとして2年ほど前から存在していたが、悩みどころがあり、棚上げされた企画になりつつあったという。

急展開を迎えたのおよそ1年ほど前のこと。KDDI総合研究所が主催する農業に関する勉強会で、キットの構想を話したところ「KDDI総合研究所で同じことを考えている人がいて、意気投合して進めました」(加賀氏)。KDDI総合研究所がアプリケーションやサーバー回りを担当し、栽培に関わる"光"や水の管理などの植物工場事業のノウハウを活かして、やさい物語を完成させた。

やさい物語。スマートフォンアプリで気温、湿度などを確認できる