家庭用水耕栽培キット「やさい物語」の発売、マンゴー栽培の実証実験――。沖縄セルラー電話が3月に発表した取り組みだ。沖縄セルラー電話といえば、れっきとした通信事業者である。その会社がなぜか農業に力を入れている。調べると「植物工場事業」なるものを展開しているのだ。

植物工場の概観。沖縄セルラー電話はなぜ野菜の栽培をするのか(写真:沖縄セルラー電話提供、以下同)

だが、調べてみても、わかることはごくわずか。水耕栽培で野菜を栽培・販売していることがわかる程度であり、詳細は不明だ。この事業は一体何なのか。沖縄セルラー電話のビジネス開発部 開発グループ 植物工場プロジェクトリーダー課長の加賀武史氏に話を聞くと、いろいろと広がっている面白いビジネスだった。

はじまりは社員教育の一環

植物工場事業は、沖縄セルラー電話の新規事業として2013年10月に始まったビジネスだ。

およそ5年ほど前のこと。社員の自主性、積極性を育む社員教育の一環として新規事業の募集が行われたという。沖縄経済の発展に結びつくものが条件で、計20ほどのテーマが集まった。そこから生まれたのが、観光事業、植物工場事業だった。

植物工場事業は主に高原野菜のレタスを栽培・販売(ほかにバジルも)する事業だが、これは、沖縄のある事情を汲んだものだ。実は沖縄はレタスの9割を県外から仕入れており、天候不順が続くと価格が高騰、夏場も沖縄に届く頃には鮮度が失われてしまうなどの問題を抱えていた。昨夏は過去最高値を記録し、県内の南大東島で販売された北海道産レタスは1玉およそ1,300円になったという。こうした問題を少しでも解消し、県内でのレタスの安定供給に一役買おうと始めたのが植物工場事業だった。

当然、通信技術の活用も視野に入れていたと思いきや、開始当初はそれほど意識していなかったという。当初は工場建設用地として、沖縄セルラー電話の所有地を活用したくらいで、純粋にレタスの安定供給を目指していたようだ。