短期的視野で見ると課題が多い

高い周波数帯を有効活用する上で、もう1つ重要な技術となるのが「Massive MIMO」だ。これは100~200といった非常に多くのアンテナ素子を用いることで、1つの基地局から多くの端末に対して同時に電波を射出できる技術だ。

Massive MIMOを用いて1つの基地局から同時に多くの電波を射出することで、基地局当たりの容量を増やすことが可能になる。しかもビームフォーミングでは複数の端末で電波を共有するのではなく、個々の端末に直接電波を届けることから、その分高速・大容量を維持しやすい。

実際、ソフトバンクは昨年、20GBもの大容量を月額6,000円から利用できる「ギガモンスター」を導入した際、傘下のWireless City Planningが運営するTD-LTE互換のAXGPネットワーク(ソフトバンクでは「Softbank 4G」として使用)に、Massive MIMOを導入。これによって通信容量を10倍に拡大し、大容量通信が増えても快適な通信ができる体制を整えている。

ソフトバンクはMassive MIMOの導入によって、AXGPネットワークのネットワーク容量を10倍に拡大できたとしている

他にもさまざまな技術を導入することで、5Gの高速・大容量化が実現すると見られている。確かに中長期的に見れば、トラフィック解消や大容量コンテンツの利活用など、5Gの導入による高速・大容量化の恩恵は大きいと考えられるが、短期的視野で見ると課題は非常に多い。

先にも触れた通り、現在は多くのユーザーにとって、4Gの通信速度で十分満足できる環境となっている。それゆえ積極的に5Gを利用する理由に乏しく、5Gへの端末買い替えなど移行が進まず、5Gの導入がトラフィック解消につながっていかない可能性がある。

しかも現在では、総務省が端末の実質0円販売を事実上禁止し、大手キャリアの過度な販売奨励金を抑制したことから、高性能な端末の買い替えが鈍くなってきている。端末を大幅に値引くキャリアの販売手法に対し、長い間批判の声が多かったのは事実だが、一方でそれがユーザーの旺盛な買い替え需要を生んで新しい通信方式が急速に普及し、都市部・地方を問わず高速通信ができる、世界有数のモバイル通信ネットワークの構築にもつながったというメリットを生み出した側面もあるのだ。

だが今は、総務省施策によってインフラ面での好循環が働きにくくなってきており、ユーザーメリットの少なさと合わせて、5Gに対応した端末の普及がこれまでよりも進みにくくなると予想される。5Gによる高速・大容量通信を早期に普及させるためには、インフラや技術以外の部分での工夫が求められるところかもしれない。